夕映え(夕時)

良守ではない誰か編|2014/04/30 posted.

いきいきと輝く瞳。形の良い、桜色の小さなくちびる。

ちょっと街を行けば、彼女の姿を認めた男性がハっとして足をとめる。
そして次に、彼女とすれ違うときどんな表情をしよう?と迷う。
その間にもズルズルと彼女との間合いは縮まって、結局は不器用に顔をそむける―。

「お利口さんすぎるのよねぇ」
「女ってさ、ぬけてるくらいがちょうどイイんだって~」

聞こえよがしに他校の女子生徒たちがふふっと意地悪く笑う。
あきらかに、今、同じ道を歩いている時音へのあてつけである。
だが、時音はまったくその一切を意に介さず、ただスタスタと道を行く。
背中でひそひそと女子生徒たちの声がするが、気にしない。

そのとき、時音の背中に向かってひとりの男が声をかけた。

時音が振り向く。

「あ・・・!」

断頭島で共に手を取り合った。
こりかたまっていた時音の心をほぐしてくれた。

その彼。

夕上が、時音の視線のすぐ先、静かに佇んでいた―。

◇◇◇

寒いからどこかお店に入りましょうという時音の提案を素気無く却下すると
夕上は、紅葉がキレイだったよと近くの公園へ歩を進めた。

夕闇が薄く漂う公園には人影もまばらで、吹く風の冷たさが秋の終わりを告げている。

「朝夕の気温差が大きいと紅葉が急激に進む。今年は特に美しいね」

夕上は紅いドレスをまとったようなもみじの木を見上げ、そして不意に訊ねた。

「墨村の彼とはどう?」

「え・・・・」

時音は、瞬間かぶりを振っていた。

「あの、別にいつもどおりです」

「ほう」

「どうしてそんな?あいつは・・・」

ただのちんちくりんですよ~?と言うのをためらっていると、夕上の口が開いた。

「まさか君、また・・ちんちくりんとか何とか言うつもり?」 

お手上げだな、と夕上が笑う。

今、言おうかどうか迷っていたことを先回りされ、
ほんの少し動揺した時音の前、夕上は遠慮のない口調で続ける。

「結界師はじめ異能者たち、なかなか出来の良いのが多いが、彼はまだまだ・・・」

「・・・・・」

「まだまだこれから、といったところか。ただ、人はいい。いいコだよ、彼は」

―そうです、お人よしで何に対してもまっすぐで。
だけど・・・と言おうとしたとき、またしても時音は夕上に言葉を遮られた。

「剛毅朴訥、仁に近し、か」

途端に、時音は口を押さえて笑い出した。

「何が可笑しい?」

「だって、あたしが言おうとしたこと、また先に夕上さんが言っちゃうんだもの」

「・・たまにあるね、そういうの。きわめて稀だけど」

―この人と思考が似ているのなら少し嬉しいかも。
時音がそう思ったとき、夕上は真面目な表情で言った。

「お似合いだよ、君と」

「誰が?」

「墨村の少年」

「あ、あたし、あいつと同類ですかっ!?やだなぁ、もう~・・」

「いや、そうじゃない。そうじゃないから彼がいい」

「・・・どうしてです?」

夕上はそれには答えず、しばし沈黙してからつぶやいた。

「良すぎるんだ」

低い声で言った。

「誰が?」

「君」

「・・・・・」

「嘘じゃないさ、君はその・・とてもいい」

時音がふり仰ぐようにした夕上の表情は真剣そのものだった。

「そう、その瞳」 夕上はうなずく。

「その瞳で見つめられたら、男は動揺する。どうしていいかわからず醜態をさらす羽目になる」

「・・・・・」

街で行きあう男性が、そんなふうにして顔をそむけるのを時音は知っていた。

「でも、君。男はね、そういうぱっちりした瞳より、輪郭のボヤけた・・そんなまなざしが好きなんだ。
視線を一旦そらせて、それからちらりと見るような、ね」

「・・・・・」

「歩き方だって、もっとゆっくり・・・・やわらかく。そういうのを男は好む」

「・・・・・・・・・・・・・」

「隙が欲しい、ぬけてるほうが―なんてね」

「夕上さん」

時音がはっきりした口調で言う。

「あたし、さっき、聞こえよがしに似たようなこと言われました」

「ほう」

「で、夕上さんもそう思うんですね?」

思わずそう言ったとき、

「いや、そうは思わない」

さらりと夕上は言った。

「それは愚かな男の言い草だ」

夕上の言葉に
あのとき、あたしもそう思った、だから気にも留めなかったの!と時音はうれしくなった。

そんな時音の様子に安堵したのか、夕上が穏やかに微笑する。
そして空をふり仰いだ。
どう言葉を継げばよいのかわからず、時音もそれに倣う。

夕映えが始まっていた。
あんず色の空を、ブルーグレイの長い雲がゆっくり流れていく。

「良すぎるよ」  夕上がぽつり、つぶやいた。

~fin.~

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

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