BadMoon(正時)

良守ではない誰か編|2014/05/21 posted.

これで烏森付きの結界師業は廃業、と、おじいさんが言った。
良守の右掌の方印も、完全に消えたらしい。
おそらく、時音ちゃん・・彼女の左胸にあるはずの方印も同じく、だろう。

◇◇◇

夜の烏森、校舎の上。
墨村正守はひとり、佇んでいた。
夜空には蒼い月がぽかんと浮かんでいる。

「悪い予兆にしか思えないんだがな、まったく」

つぶやいたときだった。

「正守さん」

不意に名を呼ばれ、声のほうへ視線を移す。

「時音ちゃん」

長い髪を夜風に遊ばせ、白く細い指でそっとかきあげる。
いつもとは雰囲気の異なる時音が立っていた―。

 

「どうしたの?」

正守の問いに困ったように微笑むと、

「この時間、部屋に居ても落ち着かなくて」

ダメですね、感覚が染みついちゃってて、と時音は首をすくめて見せた。

「それに・・」

“正守さんの姿が見えたから” そう、付け加えた。

正守はそれには答えず、

「座ろうか」

そう言って、腰をおろした。時音が隣に並ぶ。

空を見上げると、蒼ざめた月が黙って二人を見下ろしている。

「月がきれいですね、って言いたいところですけど」

“意味が、ね。ちょっと困りますよね”

隣でふふっと嬉しそうに話す時音に、正守は視線を向けた。

蒼い月の光が、不意に時音の横顔を照らし出す。
いつもはきゅっと結わえられている長い髪が、今夜はさらりとほどかれたまま。
黒髪が、彼女の白い素肌の上で夜風に遊ぶ様子はひどく艶めかしい。
まるで自分を誘っているかのようになびく髪に、思いがけず胸がドクンと鳴った。

「・・悪いコだな、時音ちゃん」

小さくつぶやくと、正守はスッと立ち上がった。
このままこのコの隣で蒼い光を浴びていると、妙な昂ぶりを抑える必要が生じそうだった。

「そろそろ行くよ」

「もう、ですか?」

残念そうな表情を隠さない時音に、“君も早く帰りなさい” と促した。

「今夜の月は、いけない。よくない月だよ」

にっこり微笑むと、正守は烏森をあとにした。

◇◇◇

良守のことを思うと、同情にも似た思いが湧いてきた。
おそらく、毎晩、苦悩しただろうことは想像に難くない。
彼女に自覚がないぶん、余計に苦しかっただろうと察する・・。

「あいつ、よく耐えてたな」

良守の苦悩するサマが容易に想像でき、正守はひとりククっと笑った。

もしも・・と思う。
もしも俺が烏森を護る役目を担っていたら。
すべて月のせいにして、彼女を・・

そこまで考えて、思考を停止した。

空を見上げる。

蒼く光る月がまんじりともせず、存在していた。

~fin.~

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

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