同級生/1

番外編|2014/05/21 posted.

ふんわりと香る甘い匂い。
彼を好きだと気づいたあの日から、私はこの香りを耳たぶと胸元にのせている。
鏡の前でほんの数滴、私は香水を身にまとうのだ。

それは、高3以来ずっと続く恋の習慣。

◇◇◇

編み物をする人はいつでも、自分以外の誰かのために何かを編んでいる。
向かいに座った老婦人が、電車が動き出してまもなく
淡いブルーの毛糸玉を膝にのせ、かぎ針を右手に持ち、指に毛糸を絡ませる。

(まるで魔法だわ)

そんなことを思いながらただぼんやりと老婦人を見ていた。

まもなく老婦人の隣に私の母校―烏森学園の制服に身を包んだ男女が座った。
見るともなく見てしまう。
中等部の少年がしきりに何かを話しかけているが、高等部女子の態度は素っ気無い。

(姉弟かしら・・・?それにしては似てないな)

そう思ったとき、少女に何かうれしいことでも言われたのだろうか。
少年がちょっぴり頬を染め、そして目を細めた。

ハッとした。

(墨村くん・・・?)

眉がそっくりだ。いや、目の感じとか、顔のつくり全体が彼を思い起こさせる。

(そういえば、たしか彼には弟が・・・)

もしかして、このコがそうなのかな?

その思いつきに、いつしか私は心を4年前へと飛ばしていた―。

春がくれば卒業、そして大学進学。
高校3年生だった私たちは、
本格的な受験シーズンを前に、不安定な気持ちを隠しきれなかった。
そんななかにあって、友達が付き合っていた彼と別れた。・・・一方的に別れを告げられたのだ。

彼女は泣いた。
声をあげて泣く目の前の彼女は、私の気分を滅入らせた。
冷たいと思われるかもしれないけれど、
鼻をかみながら泣きじゃくる彼女の姿は私を不思議なほど冷静にした。
私はただ彼女の背中を撫でるだけだった。

「あいつ、受験だからって言いながら、ほんとは他のコと付き合い始めてたのよっ!」

しばらくのあいだ、七海は太田くんの悪口を言い続けた。
悲しみは悔しさへと姿を変え、周りはみんな心変わりした彼のことを責めたてた。
七海はもともと、明るい性格で正義感も強くて、だからみんなにも好かれていた。
彼女に同情して一緒に彼を悪く言うのが友情という空気が教室内に充満していた。
だけど私は
彼をののしることで悲しみを乗り越えようとする七海を見たくはなくて、ただ黙って彼女の肩を抱いた。

 

それから何日か過ぎたある日、
七海はまるでつきものがとれたかのように、明るくサバサバとした表情で登校してきた。
そして唐突に私にあやまったのだ。
彼の悪口に参加しない私の気持ちを彼女はわかっていたようだった。

「イヤなとこ見せちゃった、はずかしいわ」

「もう大丈夫なの?」

「ううん、全然だめだよ」

そう言って彼女はいたずらが見つかったちっちゃな子供みたいに笑った。

「きれい・・・・七海、前よりずっと」

私は正直な気持ちを口にした。
せつなさに身を浸してる七海は、悪口を言ってたときの彼女とは別人のようだったんだもの。

そんなある日。

不意に墨村くんが話しかけてきたのだ、「彼女、きれいになったね」 って。
そして私を労うみたいに 「伊藤も・・・きつかったろ?」 と続けた。
お疲れさま、と墨村くんは笑って私の肩をぽんと叩いた。
そのしぐさがあまりにも自然で、
私は何も言葉を継げず、教室を出て行く墨村くんの広い背中をただぼ~っと見送った。

同級生/2へつづく。

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

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