同級生/2

番外編|2014/05/21 posted.

恋の定義ってなんだろう。
お互いの気持ちが絡み合うことで始まるの?

私は、その日を境に、彼の姿を目で追うようになっていた。

◇◇◇

墨村正守。

彼は年齢に似合わない優雅さを漂わせていた。
どうしてなのかはわからないけど
同じ教室にいながら、彼はいつも遠いところで私たちとは別の何かを見つめていた。

彼は男の子同士の雑談の合間にひとりで窓の外を見ているような人だった。
そして時々、せつなげに目を細める。
それは今まで私が目にしたことのないものだった。
大人の男の人ってこんな感じなんじゃないか。
そしてこの人はもう少年じゃない・・・私は墨村くんを見るたびそう思った。

目で追い始めたそのときから、彼の姿はしょっちゅう私の瞳の中に入ってくるようになった。
どんなに遠く離れたところだろうと、ちらりと私の視界をよぎる彼の姿を見逃すことはない。
彼が、私の視界にいるという事実が私の動きをぎこちないものにさせてしまっていた。

そんな私に七海はすぐに気づいて言った。

「気持ち、伝えないの?」

「そんな・・・数えるほどしか話したことないし」

墨村くん、私なんかが近づける余地なんてなさそうで。
なのにどうしてこんな気持ちになってしまうのかな。
謎だらけって感じがしてときどき怖いくらいなのに。

私が消え入りそうな声でつぶやくと、七海はシレっと言ってのけた。

「だから、でしょ?」

それはまったく七海の言うとおりだった。

もともと、ちょっとステキな男子という印象だった。
成績もよくてスポーツもできて、仲間からの信頼も篤くて。
当然、モテて、だから私には手の届かない存在。
そんな彼が、
七海の失恋のことでしばらくつらかった私のことを見てた。心をわかってくれていた。
その事実が私をとんでもなく良い気分にさせた。彼のことをもっと知りたいと思わせた。

―墨村くんはどこ受けるの?

何度も訊ねようとしたのだけれど、意識しすぎてダメだった。
うわさでは、彼は進学せず、家の仕事の関係でどこか遠くへ行くらしいとか。
そんなことが聞こえてきて、私はただ焦るばかりだった。

 

時間だけが刻々と過ぎ、
とうとう卒業まであとわずかとなったある日。

私は、自身の大学合格を伝え、それをきっかけに話をしようと帰宅途中の彼を呼び止めた。
清水の舞台から飛びおりる、とはこのことだと思った―。

「わ、私、受かったの!で・・・・」

そこまで言いかけたとき、彼は微笑んで言ったのだ。

「そっか、よかった。おめでとう。」

好きという気持ちと緊張がマックスに達していた私は、
頭のなかが真っ白で、そのあとの言葉が何も出てこなくてただ、墨村くんを見上げていた。

そんな私に彼はさらなる追い討ちをかけた。

「伊藤っていつもいい匂いするけど、何か香水つけてる?」

心臓がとびあがった。
はずかしくてただうつむくしかなかった。
そして次には、なぜだか湧いてくる涙をこらえなければならなくなっていた。

(なんでこんなときに泣きたくなるのよ・・・)

もうだめ、と思ったそのとき、
墨村くんがそっと手を握ってくれた。そしてそのまま私を胸元に引き寄せた。
やさしくてあたたかかった。

瞳から涙がこぼれ落ちた―。

 

 

迎えた卒業の日、
墨村くんは多くの女子に囲まれていた。
そこには同級生の女の子も下級生の女の子もいた。
墨村くんは少し困って唇をゆがめて、大きな体を苦しそうに曲げて。
なんとか微笑もうと精一杯努力していた。

私は遠くで、そんな様子を眺めるだけだった。

あの日のぬくもりを私は信じていた。
・・・それが私にほんの少しの優越感を抱かせていたと言っていい。

それが―。

まさか、あれっきりになるなんて。
卒業してしばらくのあいだ私は悶々とした。
それでもどこかで逢える気がしていたのは、どうしてだろう。

 

 

1年後に催された同窓会に彼は来なかった。
次の年も、そしてまた次の年も。
4年経った今年は、みんな忙しいからという理由で会自体が企画されなかった。

こうして私にとっての烏森学園は、墨村くんと共にそのすべてが少しずつ思い出になっていった―。

 

 

それでも今、
私の目の前にいる少年はたしかに墨村くんの弟、なのだ。きっとそうだ。
そして彼はあの頃の墨村くんとほとんど同じ制服に身を包んで座っている。

隣にいる美少女のことを、たぶんとっても好きなのだろう。
だって彼女の一挙手一投足にどぎまぎしている。
それを隠そうとすればするほど不自然な言動に出てしまってる自分に気づきもしないで。

(まるであの頃の私たち)

セーラー服の私たち、みんながそうだったように。

 

もうすぐ電車がホームに着く。

アナウンスの声に私は立ち上がった。
そして彼らの前に立ち、小さな声で話しかけてみた。

「あの、もしかして墨村くん?」

一瞬、びっくりした表情をして、彼は私を見上げた。
そしてうなずいた。隣の美少女が不思議そうに、私と彼を交互に見ている。

「やっぱり。似てるなぁーって思ってたの」
そうね、とくに眉毛が、と私は微笑んだ。

「お兄さんはお元気?」

こくん、とうなずくと少年は 「兄をご存知なんですか?」 礼儀正しく訊ねてきた。

「ええ、同級生」

そう言って私は少年を見つめた。

同じ教室で時を過ごしたのよ。
失恋した友達にためいきついてた私を、彼は目の端に捉えてくれていた。
私と墨村くんは―。

そんな、言葉にならない思いをめぐらせながら弟くんの顔をただじっと見つめた。

 

やがて電車がホームに到着し、ドアが開いた。
私は少年と少女の視線を背中に感じながら、電車をおりた。

 

弟くんは私の匂いに気づいたかしら。
ううん、そんな香りがあるなんてことにもまだ気づいてないかもしれない。
いつのまにか私は涙ぐんでいた。
あやふやな気持ちでいっぱいだった。
彼によく似た弟くんに逢って、うれしいのかせつないのかよくわからなくて。

どこか甘くて、それでいて苦い。

―そう、あの頃たしかに墨村くんは、私の心をきゅっとつねったのだ。

~fin.~

☆読んだよ☆

 

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

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