砂浜にて/2(良時)

良守編|2014/07/11 posted.

旧サイトから。
『砂浜にて』後編です。
新作は今しばらくお待ちください☆

砂浜にて/2

海の気配が漂ってくる。
ゆるく吹いている向かい風は、海から届いた潮風。

信号が青に変わると、ラストスパートをかけた。
シフトレバーを一番上の段までスライドさせた。一気に加速する。
やがて道路の先が上り坂になっているのが見えてきた。
あそこを越えれば海が見える。

ペダルを深く踏み込んだ。

◇◇◇

青空の下に水平線がのび、空より更に青い海とを隔てていた。
沖には貨物船が浮かび、波の上で海鳥が飛び交っている。

なんだろう、とても嬉しい。
海が広かったり、空が高かったり。そんなことがとても気持ちいい。
そしてうしろに、時音を乗せていることも。

カラダ中にしびれるような快感が広がってくる。

「遊泳禁止みたいね、このあたり」

時音の言葉に合点がいった。
どうりでオンシーズンだというのに、人影がまばらだ。

自転車を駐車場の隅に停めると、俺と時音は二人して波打ち際に向かっていった。

海に足を踏み入れる。
足先は少しだけ砂に沈み、穏やかな波がその上に砂を運んでくる。
俺はしばらく、足先がさらさらとした砂に包まれる感触を味わった。

寄せては返す波のリズムが肌を通して伝わってくる。
波を感じながら潮騒に包まれていると、なんだかおかしな感覚に陥った。
この感覚、どう言うんだろう?そう思ったとき、時音が口を開いた。

「あたしたち、今、海の一部だね」

そう!ほんとそんな感じなんだ。俺はうんうん、と大きくうなずいた。

そのあと、俺たちは並んで砂浜を歩いた。

適当な場所で腰を下ろす。

ふたりして、潮騒に耳を傾ける。

俺は隣に座る時音を見つめた。

水の光に揺れる横顔。
透き通るその瞳に出逢うたび、視線が外せない。
普段は聞こえない音や、見えない色。
そういうの全部、こいつといると感じられるから不思議。

あ・・・俺、今、なんかすげえ幸せ。

「なんにも知らない人が見たら、あたしたちって普通に“夏の恋人”なんだろーね」

突然、時音がそう言って笑った。

「・・・恋人」

「うん、砂浜に並んで座ってるなんていかにも、だもん」

「お、おう」

(ナンだよ、期待させるようなこと言うなよな・・・その気もないくせに)

俺は思わせぶりなことを言う時音がなんだかとても憎らしくなってきた。
だってそうだろ?俺のこと、恋人だなんて思ってないから平気でこんなこと言うんだろ?

「ねぇ、夏の恋人って結構、いいフレーズだと思わない?涼しそう、すごく」

「そうか?俺はもっとナマナマしいものイメージするけどな」

不機嫌な俺の返事に、時音が驚いた顔をした。
・・・そーいう表情するなよ。お前が悪いんだろ。
そう、思うんだけど、やっぱなんかそのままにはしておけなくて、俺はひと呼吸おいてから続けた。

「だ、だってさ、ひと夏の、とか言うじゃん」

「ひと夏の恋とか・・・経験ってヤツ?」

「そう」

「・・・・」

じっと俺を見る時音。

「な、ナンだよ。感じたままに言っただけだぞ、俺は」

「ううん、いいのよ、別に・・・。だけどひと夏の・・・って言葉をあんたから聞くとは思わなかった」

「つかお前はどうなんだよ。ひと夏の・・・」

「ないわよ」

「・・・・」

「女の子って雰囲気に弱いだろうなーとは思うけど」

「雰囲気?」

「うん、たぶんね。あたしはちょっと女の子風味が薄いだろうから、よくわかんないけど」

「・・・薄くねえよ」

少なくとも俺にとっては。
最近のお前は、どうもその、毒に近いモンがある。
てか、濃すぎる。
それに、と俺は文句のひとつも言いたくなった。
夏の恋人だなんて軽々しく口にするなよな、俺と一緒の時に、と。

そしたら、ナンカ急に。
不機嫌ついでに、急に強気になってきた。

いきおい、つ・・・・と時音に手を伸ばしてみる。
そして、あっけなく到達した時音の手を、俺はそっと握った。
やわらかく、すべすべした手。
少し力を込めたら、きゅっと俺の手の中、おさまってしまう、その儚さに一瞬、クラっとした。

「で・・・この手は何なの」

「だから。夏の・・・」

俺が言い終わらぬうちに、時音が“夏の恋人ごっこ?”と、笑った。

ムッとした。
ごっこってナンだよ。
俺、お前が思うほどもう、子供じゃ・・・

「時音」

胸の鼓動が速度を上げる。
このまま、引き寄せたら―。

そう思ったとき、うしろに人の気配を感じた。
振り返ると、砂浜のゴミを拾うボランティアらしき人たちがこちらをニヤニヤ見つめている。

思わず、時音の手を離す。
そのまま立ち上がるのもバツが悪く、俺はただ黙って沖のほうを見つめ続けた。

そうするしか、なかったんだ。

もう、人の気配は感じない。どこかへ行ってしまったようだ。

それでも、なんとなく時音に声をかけづらくて俺は、少し焦って言葉を探した。

「あ、あのさー時音」

「・・・うん」

「今日のプール、あれはあれで良かったんだけど」

明らかにモードが変わった俺に安堵したのか、
それとも
さっきの俺の行動にもまったく何も感じていないのか・・・時音は涼しい表情を俺に向けた。

「こんなふうにプールから海が間近に見えてりゃ、もっとこう・・良かったって思わね?」

“言われてみれば確かにそうかも”と答えたあと、何か思い出したように時音は続けた。

「あ、良守、あたしね・・・旅行のパンフレットとか見るの好きなんだ、実は」

“へぇ・・・”と答える俺に、時音は少し照れくさそうな表情を向ける。
その静かな表情のなか、ふと浮かべた微笑にしばし、見とれてしまった。
そんな俺に気づきもせず、時音は光をまとった表情のままに言葉を続ける。

「でさ、こないだ見たのがバリ島のリッツ」

「リッツ・・・って、あのすっげーホテル?」

「うん、バリのリッツ、ハネムーナーに人気なんだって。
で、そこさ、海がすごく近いの、プールから見えるの。
うーん、見えるっていうより、プールに海が続いてる・・みたいな。
今、あんたが言ったような感じだったなぁ。海を見ながらプールで泳ぐなんて、たまらなく贅沢」

時音はそう言って微笑んだ。

「ほんとに・・・素敵だった。夕陽の沈んでくところがとても。で、いつか、行きたいなって」

思わず俺はごくり、と唾を飲み込んだ。

「それ、ハネムーンで?」

「そうねぇ・・・でも新婚旅行って1週間くらい?そんなに長く、仕事、代わってもらえる?」

「そ、そりゃ、大丈夫だろ!!つか、その頃までには烏森、封印してる」

突然また。
無性に。
俄然、力、入ってきた。

“封印・・・そう、だったね” 時音はフフっと笑った。
そして“ま、でも今の状況が続いていたとしたら・・・” と続けた。

「あんたのとき、あたし、代わってあげるから。だから好きなところ、1週間くらいなら大丈夫よ?」

「おう!・・・って、おまっ・・・一緒、行かねーの!?」

「え」

「だって俺らの新婚旅行だろ?別々ってヘンじゃね?」

「え?」

ひときわ大きな疑問符を口にし、訝しげに俺を見る時音。

しばし、視線が交差する。

「・・・・・な、何それ」

「あ、だから・・・えっと、その・・・」

「・・・・」

だ、だめだ。
さっきの恋人未遂に続き、この、なんか微妙な・・・これ、プ、プロポーズ!?

・・・・・・・・・。

「帰るぞ!」

サッと立ち上がり、俺は服についた砂、そして羞恥心を振り払う。
パンパンとわざと大きな音を立てたら、隣で時音がクスっと笑った。

~fin.~

☆読んだよ☆

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

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