残月

良守編|2016/10/25 posted.

すでに夜は明け始め、西の空にぼんやりと蒼ざめた月が浮かんでいた。

残月。

夜にも朝にも見放されてしまった月。
どれだけ夜を手に入れられても、けっして昼を手に入れられない月。

時音は不意に、身体が凍りつくような孤独に包まれる。

「なぁ、時音」

烏森からの帰り道、良守が声をかける。

「もしも、さ。もしもいつか、烏森封印できたとするだろ?で、俺ら自由になったら・・・どうする?」
「え?」

唐突な質問に時音はとまどう。
自問自答するたび胸が痛んでしまうようなことを、どうして良守はこうも平気な顔で言えちゃうんだろう。

「俺はさー、今と同じようにまっすぐ家に帰ってそれで、ケーキの研究する!!」

にっと無邪気に笑って、そのあと

「・・・って俺、今と変わんねーじゃん!」

ひとりブツブツつぶやいている良守に、時音はあきれた表情を向けつつ思う。
自分が考えているような深刻なことは、何も考えていないのだ、コイツは。
すると、今までの自分がなんだか無性に可笑しくなって力が抜けて、時音はプっと吹いてしまった。

「時音は大変だよな。」
「え?」
「受験だもんなー。俺、考えただけでゾっとする」
「・・・・・・・・・・・・。」

まったく。
コイツは。

なんだか本当に可笑しくなった。
良守に対して、すごく穏やかな気持ちになる。
そしてあたしは、少しばかり自分のバカさ加減がイヤになった。

「良守。あたし、何を目指せばいいかな。何が合ってると思う?」

良守は意外だなという表情を時音に向けた。

「珍しい・・・時音のそういうリアクション」
「何よ?じゃあ最初から訊かないでよね!」
「わ、悪かったよ。でもさ、お前っていっつもすっげえ現実的じゃん、だから・・」
「叱られると思った?」
「うん」

ふふっと時音は微笑んだ。

「もしも、いつか、かぁ」

いつか、烏森を封印することができたら。
そして結界師というドアが閉まったら。

肩の荷が下りるという安心感、解放感にきっと心が軽くなる、そう思う。
でも、それ以上に感じるであろう恐怖もそこにはある。
枷がないということは、自由であると同時に恐ろしいことでもあるの。
結界師でなくなったあたし。
ひとりぽつんと、ただ暗闇に取り残されそうで本当は怖かったのよ、とても。

なのに良守はいつだって。
いつだっていとも簡単に、凍える孤独からあたしを引き上げてしまう。

「なんだって大丈夫だよ、時音なら」

さっきまで無邪気な笑顔だった良守が少しむくれた表情で答える。

「・・・・・あんた、急にまた機嫌悪いわね」
「うるせえ」

いつまでこんなふうでいられるのかしら。
時音は、良守の不機嫌そうな横顔を眺める。

目が合う。
と、途端に良守が視線をはずす。

「あんま、先に行くなよなー。俺がついてけるくらいにしとけ!
・・・・つーか、やっぱ家にいろ!!」

怒ったように言い放つ。

「何それっ!!いい加減なこと言ってんじゃないわよ!?」
「う、うるせえっ!!」

ズンズン大また歩きで先を行く良守。
その背中を立ち止まったまま時音は見つめる。

ついてこない時音に気づき、良守が振り返った。

「どーした?」
「ううん」

―新しいドア、開いてるのかもね。

空をふり仰ぐ。
残月が空に寄り添い、お日さまを待っている。

~fin.~

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

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