時音のいない日/2

良守編|2016/10/25 posted.

「ひとつノってみるか?な!良守」

閃がセッティングしたのは、中等部3年2組女子との茶話会。
男子は3名、対する女子は2名という、少しばかりアンバランスなお茶会ではあるのだが。

大して興味はなかったが、半ば強引に引っ張られ、
良守は今、チェーン展開しているドーナツ店で女の子達と向かい合わせに座っている。
しかし、そんな最中でさえ、良守はパネルのドーナツのほうが気になる。

(あんなふうにコーティングかければ、格段においしそうに見えるんだなー・・)

まん前に女の子がいて自分のことを興味深そうに眺めていても、お構いなし。
彼にとって“甘いもの”とはこの期に及んでもなお”お菓子”であり、
時音以外の女子など、おそよ眼中にないのだった・・・。

「1年のときおんなじクラスだったよね」

良守の向かって右側に座っている、見るからに活発そうなコが良守に話しかける。
ショートカットが彼女の日焼けした肌によく似合っている。

「あぁ、だね」
「ど、どう?今のクラス、楽しい?」

メンバーは男子サイドが閃、良守、それにクラスメイト・森田くん。
閃が森田を招いたのは、きっちり計算上のことである。

あまりに器量の悪い男子だと、もうそれだけで女子は盛り上がってくれない。
まったくもってゲンキンなもんだと思うが、しかたがない、ルックスはやはり大事だ。
かといって、
あまりにステキすぎる男子だと、ただでさえ地味めな良守の存在がかすんでしまう。

それは困る!

というワケで、彼なりに熟考した結果の、この人選なのだった。

森田というクラスメイト男子は、華やかなルックス、とまではいかないが
どことなく漂う上質な雰囲気、それに女子を飽きさせない話術に長けている。
そういったモロモロが彼を「ちょっとステキ」に見せていた。
しかも閃は、「墨村が楽しめる雰囲気作りをたのむ!」という森田への根回しも抜かりない。

今回、じゅうぶんに良守が楽しめるお茶会のはずだった―。

「斉藤さんさ、髪、似合ってる。前よりイイね」

唐突な森田の褒め言葉に、
斉藤と呼ばれた彼女は、少しはずかしそうに自分の髪をなでた。

「ウチのクラスの女子って、斉藤さんみたいなコいないんだよねー」
「そうそう、どっちかってーと、お子ちゃまな雰囲気のコが多め」
「そうだよな、2組は大人っぽいなぁ、全般的に」

閃と森田が3組女子と2組女子の違い(?)を
妙に学術的に分析し始めると、2組女子の二人はうれしそうにふふっと笑った。

斉藤、と呼ばれた彼女は良守から見て左側に腰掛けている。
いかにも優等生な雰囲気があふれる女子だ。
閃は、良守の好みをも押さえてあるようだったが、肝心の良守は我関せずな態度のまま。

「斉藤さんの前下がりボブ、いいよな、知的な感じで」

閃が良守に「な?」と同意を求めた。

「あ、ああ。」  なんとも味気ない返事の良守であった・・・・。

「墨村くんはどんな髪型が好きなの?」

不意に斉藤さんが良守にたずねる。
ちょこんと小首をかしげたその仕草が、女の子っぽいカーブを描いた。

「ん・・・・あー、そうだね、なんでも」

“おいおい”と閃があわてて口を挟む。
「なんでもってこたーねぇだろ?短いのとか普通とか・・・長い、のとかさ」

“長い”というところを、閃は少し小声で言ってみたのだが・・・

「長いの。」 良守は、きっぱりと答えた・・・。

その答えに斉藤さんは、にこっと微笑むと
「やっぱりねぇ。なんだかそんな気がしたわー。ね、おさげが良かったりしない?」

「え?どーして?」 閃が良守に代わって返事をする。

「えー・・・だって~仲良いじゃない?ほら神田さんと墨村くん」

ほんの少しだけ、良守は驚きを表情に出した。「なんで神田なんだよ」

「付き合ってると思ってたんだけど、違うの?」
「ああ、あのコとは2年のときから一緒ってだけで」

「何、斉藤さん、コイツのことどうして知ってるの?同じクラスだったの?」

閃の問いに森田ももう1人の女子もうんうんとうなずく。

“ううん、そうじゃないけど”と斉藤さんは首を横に振った。
「墨村くんてさ、去年だっけ?高等部の人ともウワサあったよね?
・・・ほんと言うと、こうして会うの楽しみだったの!」

「楽しみ?コイツ?」 閃が良守を一瞥したあと、不思議そうに斉藤さんを見る。

彼女は“うん、ちょこっとだけどねー”と、左の頬に小さなエクボをつくった。

帰り道、閃がゲンナリした表情で良守に話しかける。

「お前さー・・・もちょっとこう~興味もって話そうとか思わねーの?」
「話したじゃん」
「・・・・あのなー。雪村だって今頃きっと、旅行先で似たような感じだぜ?意気投合して今度どっか二人で、とかさー。そういうもんじゃね?修学旅行って」
「・・・・。」
「だーかーら!お前も楽しめばいいんだよ!?ンな、忠誠尽くしたって、あの女、お前の気持ちに気づいてもないんだろ?」

“ったく・・ヘンなとこ真面目だよな” と言う閃に、
それまで黙っていた良守が口を開いた。

「・・・あいつが、どうなのかはわからない。だけど―」

そしてひと呼吸おいてつぶやく。 「俺、あいつ以外ダメなんだ」

◇◇◇

翌日。

良守がいつものように机に突っ伏して眠っていると、突然、耳を引っ張られた。

「おい!」
「!・・ってぇ!影宮、何すんだよ!?」
「斉藤さんからメールきた。お前ともっと話してみたいってさ~」
「・・・・。」
「ったく。―女ってほんとわっかんねぇの!森田と盛り上がってるっぽかったのにな、彼女」
「悪い、影宮。俺・・・いい。」
「そう・・・言うと思った。」

閃は大きくためいきをつくと、良守の前の席に座った。

「な~んか・・・余計に気を滅入らせちまったか?」

“悪かったな”などと、
やけにしおらしいことを言う閃が意外で、良守は顔を上げた。
“なんだよ、らしくねーな?”良守が少し笑うと、閃は、首を横に振った。

「敵わねえよ・・。好きにしろ」

それだけ言うと、“じゃーな”と自席へと戻っていった。

彼のうしろ姿を見送ると、良守は立ち上がった。

窓のほうへ歩く。

教室の窓から見える校庭は、いつもどおりの景色のはずなのに、
なぜだか目に映る色がいつもよりあいまいで、薄いものに感じられる。

それはたぶん、いや、まちがいなく時音がいないせいだ、と良守は思う。
見慣れた風景に色を添え、日々をまぶしく輝かせてくれるのは、自分にとっては時音の存在なのだ。

―影宮の言うこともわかる。おそらくあいつの言うことが正しい。

だけど、やっぱり俺―。
あいつしかダメなんだ。

時音。

修学旅行で、俺の知らない誰かから誘われたり・・・してるのか?
そんなとき、お前ってどんなふうなの?

気になってしかたないよ。

元気ならいいんだなんて思えない。
そばにいてくれなきゃダメなんだ。

時音。

こんなままじゃ、俺―。

◇◇◇

そして今日。
高等部2年の修学旅行最終日。
旅行から戻った2年が自宅でくつろいでいるだろう夕闇の頃。

角を曲がる。
薄闇の奥がぼうっと明るみを帯びている。

胸がどきどきしてきた。

時音の家の前、その上空に結界を張り、タン!と駆け上る。

時音の部屋の窓、あかりが灯っているのを見たとき、
不意に涙が出そうなくらい胸がいっぱいになった。

帰ってる。
時音は戻ってる。

鼓動が早くなる。

時音がいないのはとてもさびしい。

良守は思う。

時音が好きだ。

好きで好きで、でも好きだと想いがつのるほど自分がかたくなになってしまう。
この世界のどこにも味方がいない気がしてくる。

どうしてそんな気持ちになるんだろう。
出逢ってからずいぶん経つのに、出逢った頃よりもずっと強くなるのはなぜだろう。

結界から降り、呼び鈴を押そうと指を伸ばした。
告げる言葉は、もう決めてある。

~fin.~

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

原作で満たされなかった想いを二次創作にぶつけています。

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