お姫さま/1

良守ではない誰か編|2016/10/28 posted.

雪村時音が、K大剣道部にやってきたのは晩秋の、ある一日のことだった。

K大学では毎年、学生の出身高校を何校か招き、合同練習と団体戦を行う。
招待される各校では、入念に準備し実力を上げてこのイベントに臨む。
しかし、今年度、烏森学園剣道部、実力ある女子部員が体調を崩し入院。
―このままだと人数、実力ともに支障をきたしてしまう。
よって、帰宅部ながら剣道の腕に覚えあり、時音に白羽の矢が立ったのだ。

K大剣道部員・石原は、普段より親交のある烏森学園剣道部のこの件に関し、
その「腕に覚えあり」な女子高生の簡単なプロフィールを事前に知らされていた。

そして思っていた。

そんなに腕がいいのに帰宅部だって?
烏森学園のマドンナ?
ふん、鼻もちならないな―。

◇◇◇

対面するのはその日が初めてだった。
「鼻もちならない」と思ったことが今となっては・・・である。
時音は完全に好みのタイプだった。
淡々とした挨拶のしかた、しつけの行き届いた立居振舞を目にした時点で
石原は「これはまずいな」と感じていた。
相手は女子高生なのだし、自分には恋人がいるのだから、と。

時音は落ち着いた印象の娘だった。
学園内で評判になるほどだから、
自らの美しさを鼻にかけたイヤな雰囲気が漂っているのだろうと思っていた。
きっと自意識過剰なコなんだろうな、と。
だが、彼女にそういった一切は見られなかったのだ。
それが石原の心をかき乱した。

一緒に稽古をしてみてわかった。
彼女は常にさりげなく相手を思いやり、そのうえで厳しく挑んでくる。
「急遽、代役を」などと、誰もがイヤがるような役回りを淡々と引き受け、
務めるからにはきちんと、を黙って実践する彼女。
その抑制の効いた言動に
いよいよまずいな・・・・石原は心のなかでつぶやいていた。

会ったその日から彼女のことを考えるようになった。
面をつけるときに、すっと上がる丸くてきれいな額。
稽古を終えたあと、ほんの少し上気した表情。
汗がうっすらとにじんだ彼女はこの上ないほどコケティッシュな魅力に溢れている。
ほんのりピンク色に染まった頬が可愛くて、視線を外せなくなった。

それにこんなに可憐な容貌なのに、剣道の腕前ときたら。
警察の師範クラスと言って差し支えない。

センスが良い。
間合いのとりかたが良い。
一瞬の狙い時を外さない。

「今だっ!」というタイミングのとらえかたはまさに玄人はだし。
最小限の静かな動きで相手を打つ。
彼女の、その静謐な闘い方は、見る者をハっとさせる力を持っていた。

◇◇◇

「雪村さん、稽古なんて必要ないね。」

短い休憩時間、石原はさりげなく時音のそばに来て声をかけた。

「いえ・・・」

時音が少し緊張した面持ちで頭を下げ、照れたようにほほえんだ。

「あの野村さんの代わりだろ?かなりプレッシャーあるんだろうなーって心配してたんだけどさ。キミの様子見て安心した。どこか道場でも通ってるの?」

石原がたずねる。

「通っていません。ただ、野村さんの代わりをきっちり務めなければ、とは思ってます。」

そう、真面目な表情で答えたあと

「それと先輩・・・プレッシャーはありますよ」 もうっ!と時音は、はにかんでみせた。

「ちょっとちょっと石原先輩。女子高生、口説いちゃダメですって」

軽口と共に、石原と時音の間に割って入ってきたのは松本である。

松本はK大の1回生で、剣道部・期待の星、と自ら称する面白い男だ。

「雪村さん、時音っていうんだね。いい名前」

そんな・・・という時音に、松本が続ける。

「ねーどうして剣道部員じゃないの?烏森とは合同練習、結構やってるんだよ。
時音ちゃんがいたら俺、もっとはりきったのになぁー!先輩もそうですよね!」

「なれなれしく下の名前で呼ぶなよ・・・」 石原が面白くなさそうに松本を見た。

◇◇◇

5日間もある、と合同練習を楽しみにしていられたのは最初の2日間だけだった。
3日目からは、「今日を入れてあと3日の稽古。試合が1日。彼女に逢えるのはあと4回・・・」
後ろ向きな気持ちになっていた。

そして4日目の木曜日、K大との合同練習を時音は欠席した。
昼は学校、夜は妖退治―と、時音の毎日は人知れず激務なのだから。
睡眠不足で体を壊しては元も子もない、と
自己管理においても非常にストイックな時音は「ごめんなさい」と申し出たのだった。

金曜日の放課後、時音がK大へ到着すると石原が待っていた。

「もう大丈夫?ムリしなくていいんだよ?試合だけ出たって構わないんだから」

「いえ、平気です。突然、お休みして申し訳ありませんでした」

時音が頭を下げる。

その、折り目正しく、清廉な姿に石原は動揺した。焦りを感じた。
重症だと思った。
昨今、こんな清らかな匂いのする女のコにお目にかかることなど皆無に等しい。
そんな彼女を眼前にし、石原は自分でも不思議なほど胸が高まってしまったのだ。

実際、昨日は彼女がいないせいで、一日つまらなかった。
稽古のあと、松本に「もしかして時音ちゃんいないせいだったりして?」などと冷やかされた。

バカだな、と思う。どうかしてる、とも。
たった3日間、たった1時間ほど、一緒に稽古に臨んだだけなのに。
本来、自分はひと目ボレなどするタイプではないのに、と石原は自嘲気味に笑った。
今、付き合っている彼女とだって、バイト先が同じで、毎日顔を合わせているうち、
徐々にお互いを意識しあうようになったのだ。

それが―。

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

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