お姫さま/2

良守ではない誰か編|2016/10/28 posted.

たった短いあいだでも、気づくことがある。

時音は誰に対しても構えたところがない。
そして誰に対しても一定の距離を保っている。
このコはいったい誰が好きなのか。どんな男に惹かれるのか。

知らず、烏森学園高等部の男子剣道部員たちに視線が向く。
そう目立った男はいない。
どいつもこいつも彼女には多少、気後れした感がある。

石原は、ふん、と余裕の表情で前を見据えた。

◇◇◇

「ねぇ、なんだかこのごろ楽しそうじゃない?」

デートの最中、美香が石原に声をかけた。

「そ、そうか?」

答えながら少しどきりとする。

「なんかイイことあった?」
「別に」

石原が平静を装う。

「わかるのよ」

美香の、いかにも見透かしたような口調にまたどきりとする。

「ほら、佑クン、言ってたでしょう、招待試合、ピンチヒッター嬢のこと」
「あ、あーそうだっけ?」

石原が寝返りを打つ。

「やだな、もう・・・ヘンな気、起こさないよーに!」
私、佑クンがこんなに好きなんだからね、美香が石原の背中をちゅっと吸った。

◇◇◇

試合当日、
時音は合同練習時よりはるかに淡々とした表情を見せつつも、闘志は熱くたぎっているようだった。
団体戦では先鋒を立派に務めあげ、
結果、烏森学園は大健闘。エース野村さんの代役を見事に果たしたのである。
観客席からは時音に、感嘆の声が上がっていた。

「お疲れ様でしたー!」
招待された各校生徒たち、K大剣道部員たち、
みんなで簡単な打ち上げがK大構内にて行われた。

美香のけん制もあって、今日はできるだけ時音から遠くにいようと心に決めた石原だったが
時音の隣ではしゃぐ松本の姿を見るとふつふつと怒りにも似た嫉妬心が首をもたげてくる。

―調子のいいヤツだからな、松本は。

どんなささいなきっかけを利用して彼女を口説こうしているかわかったもんじゃない。

それに―と石原は思う。

何しろ今日が最後なのだ。
美香が心配するようなことは何もない。
招待した側として、野村さんの代役を見事に務めあげた彼女を労うのは当然だ。

「ほっとした?雪村さん」

時音の隣で笑顔で話す松本をグイッとうしろに押しやり、石原は時音の隣に立った。
お疲れさま!とオレンジジュースの入った紙コップを差し出す。

「ありがとうございます」 時音がにっこり微笑んだ。

その笑顔が胸を射抜く。
どうしてこんなにも逢ったばかりのこのコのことが気になるんだろう。
隣のコと楽しそうに談笑している時音の横顔を盗み見る。
かわいい。
つい、その胸元に視線を這わせると、スリムな体つきのわりにふっくらとしたライン。
不意に息苦しさをおぼえた。

「石原さんは、何学部なんですか?」

時音が小首をかしげて石原を見上げる。
石原はハッとして視線を戻す。
時音を見つめる。
きれいだと思った。なんだか微妙にせつなくなった。

・・・誘ってみようか。
このコはどんな反応をするんだろう。
見てみたい―。

そう、石原が思ったときだった。

「ちょっと先輩~、何、思いつめた顔してんです?まさか時音ちゃんに・・・」

相手、まだ高校生っすよ?

そう言いながら、今度は松本がグイっと石原をうしろに押しやった。
そして「気をつけてね、時音ちゃん」、時音の隣に並ぶ。
石原は「おい」と再び、松本をうしろへ押しやろうとした。

「ちょっ・・・やめてくださいよ、先輩!」
「おまえこそ、ナンだよ?」
「時音ちゃんと話したいんですよ」
「俺だって」
「彼女いるでしょう、先輩には!」
「それとこれとは関係ないだろ?」
「ありますよっ」

時音はそんな二人の様子を見て、不安そうにしている。

すると、
「とっきね~!!」
少し離れたところから声がした。

「良守」

どこかホっと安堵した表情で時音が小さく手を振ると
まるで尻尾を振ってかけてくる犬のようにこちらに向かってくる少年。
その姿が石原、松本の目に突如飛び込んできた。

「調子、良かったじゃん。」
「そう?なんとかお務め果たせたかな」
「おう、ばっちり!剣道の腕、落ちてないなー。」
「当たり前でしょう」
「今度は俺とやってみる?」
「バカね。あたしに敵うワケないじゃない。」

二人のやりとりを、石原はあっけに取られて見ていた。
姉弟?とも思ったが、少年の挙動にはどことなく共感できる部分がある。
彼女のやわらかな表情にも察するものがあった。

ああ、そうなのか。

乾いた気持ちで思った。

松本を見ると、たぶん自分と同じ気持ちでいるのだろう。
複雑な表情で二人を眺めている。

・・・・これでやっかいな気分からは解放されるな、ぼんやり思った。

帰り道、携帯を取り出し、石原は美香に電話を入れた。

「これから、会えないか?」
「今日はダメ、バイト」
「そっか・・・」
「急いでるの、切るわよ?」
「ま、待って。少しだけ何か話してよ」
「・・・・なんかあったね?」
「美香と話したいだけ。」
「フラれた?」
「・・・・。」
「慰めてほしい、なんて思ってたら大間違いよ?」
「・・・・。」
「迎えに来て。」

それなら考えてあげるわ。
ケータイの向こう、美香の優しい声がした。

~fin.~

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author: lala (ララ)

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