雨音/3

良守編|2016/10/28 posted.

少し気持ちが落ち着いてきた時音は、黙ってただ、良守の装束を握り締める。

どれほどの時が経っただろう。

きっと驚くほど短い時間のはずなのに、二人にはひどく長い時間に感じられた。

「良守、あたしは・・・」

時音が沈黙をやぶった。

次の言葉を紡ごうと唇を開きかけると

「言うな」良守が制した。

◇◇◇

烏森学園高等部2年B組の教室で、
時音はぼんやりと頬杖をつき、窓の外を眺めていた。

今日も雨降り。

昨夜、雨に濡れた自分にまっすぐな気持ちをぶつけてきた良守を思うと
痛いくらいに胸が締め付けられてしまう。

ここ最近、雨音に過剰な反応を示してしまう自分は、
ただ自分のこと、つまりその存在意義を考え、
心をほかへ飛ばしてしまっていただけなのに―と、自己嫌悪に陥らずにはいられない。

それでなくとも、高校2年、そろそろ進路を決めるべき時期に来ている。
結界師としての存在意義。
烏森という土地の守護者である自分がいったいどれだけのものなのだ。
結界師としての義務や使命だけで、生きていって良いのか。
今後の人生を思うとき、そこに結界師以外の道を拓くことは、自分を否定することになるのか。

断頭島で夕上と過ごした時間は、普段の生活に戻った時音に大きな影響を与えた。

「あーもうっ!こんなふうに考えるの、あたし苦手なのよね!!」

「ど、どうしたのよ、時音・・・いきなりそんな大声」

友人のまどかがいつのまにか傍に来て、時音を驚いた表情で見ていた。

◇◇◇

「ふぅん・・・」

学校の帰りに立ち寄ったファストフード店は、
普段に比べるといくぶん人の入りが少ないようだ。

雨のせいかもしれないな。

雨宿りしよう、というよりは、「早く家に帰ろう」
こんなふうに考える人間が案外、多いのかもしれない、などと店に入った途端、時音は考えた。

そんな時音に、まどかがいろいろなことを矢つぎばやに質問する。
「結界師としての仕事」をヌキに、そこそこ本音も交えつつ話すことは
思う以上に難しいことなのだが、そこは聡明な時音のこと。
なんとか全ての質問に答えることに成功した。

神妙な顔つきで時音の答えを聞いたあと、まどかは深いためいきをつく。

「要するに、時音の家は旧家で、先祖代々こなしている数々の仕事がある。
そのために、たとえば大学で何かを専攻して、将来の仕事に役立てる
―という、ありきたりパターンには簡単にはあてはまらないってことなのね?
・・・って、私、自分でも何言ってるのかぜんっぜんわかんないんだけど」

「あはは、そうなのよねー、まどかはもう大体のこと決めてるの?」
と、今度は時音がまどかに質問する。

「具体的なことはなんにも。でも、そうだなぁ~、漠然と憧れるのはCAかな」
「そうなんだ・・」
「まだ漠然としたもんだけど。時音のが、CAぽいけどなぁ」
「しょっちゅう、いろんなところへ行かなきゃダメなんでしょ?CAって」
「そりゃ、まぁ、そうよね。飛行機でいろんなところへ飛ぶんだもん」
「・・・家を空けるのはね」

「ふーん、なるほどね。時音の悩みはそこなんじゃない?」

まどかが見透かしたように時音に言う。

「どういうこと?」と首をかしげる時音にまどかが続ける。

「これからどうするか、進路決めづらいとかで悩んでるんじゃなくて、
時音は、家に縛られずに人生を決めたい、楽しみたいって思ってるのよ。
だから、『あーもうっ!!』だったんじゃない?答えはもう出てるのよ、きっと」

「・・・え?」

「うん、時音は、家とは関係ない何かを求めてるのね」

ちゅうっと、まどかはシェイクをストローで吸い上げると「おいしい」とにっこり笑った。

◇◇◇

―結局、良守とキスしたことは、言えずじまいだったけど、と
まどかと別れてからの帰り道、時音はひとり微笑んだ。

それでも、
彼女に進路のことを含めた今の自分の状態を聞いてもらったことで
少しは心が軽くなったような気がしていた。

夕上も言っていた。
「人生は楽しまなきゃってことだな!」と。

◇◇◇

夜の烏森。
今夜は雨もあがって、美しく澄んだ空気が肌に心地良い。

昨夜と同じく、時音は少し早めに烏森に来て、タン!と屋根の上に軽やかにのぼった。
空を仰げば丸い月が、時音を穏やかに見下ろしている。

「時音」

呼ぶ声に顔を上げると、いつのまにやって来たのか、良守が時音の隣に腰を下ろしていた。

時音は、少しきまり悪そうにうつむいているこの幼馴染の中学生に優しいまなざしを向ける。
「あのさ」と声をかけた。

「ここ最近、ぼんやりしていて悪かったわ。ちょっとね、進路のこととか、
あと、その・・・夕上さんの言ったことが頭にあって。
珍しくいろんなこと思いめぐらせちゃってた。心配かけてごめんね」

良守は黙ったまま、表情は固い。

「夕上さんとは何もないってこと。あたしがいろいろ思ってたのは自分のこと―未来。
少し卑屈になってた。・・・ね、良守、だからもうそんな顔しないでよ?」

「そんなふうに片づけないでくれ」

そう言うと良守はスクっと立ち上がった。

「きのうのことは謝らない」

時音はきっと真っ赤になってるであろうこの少年の表情を思って、うつむいた。

この先、あたしはどうなっていくんだろう。
夕上さんのお姉さんのように、ここがなくなってしまったら
そのときあたしは、彼女のように抜け殻になってしまうのか。

良守・・・・・。

あたしは―。

時音が立ち上がる。
彼女の長い髪を、風がそっと揺らした。

~fin.~

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

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