つまりは彼女に。

良守ではない誰か編|2016/10/28 posted.

・・・ユーウツだ。
いつのまにか10月も半ばだもんな、それも高3の。

あーあ。

俺は、ベッドの上で大きな枕を
あたかもぬいぐるみを抱くように抱いて、何度目かのためいきをついていた。

なんというか、
進路とか、そういったものについて人並みに焦りを感じてて。

もちろん「医学部へ進むか、はたまた・・・・?」
などという豪華な焦りでないことは確かだけどさ。

勉強はできないほうではない。むしろ、できるほうだったりする。
が、かといって、「一流大学に現役合格まちがいなし!」というほどでもない。

中堅より少し上位の理系。
だから、流れとしてはこのまま一般的に名の通った私大の工学部系、
あるいはもう少しがんばって国公立か。
そんなところを希望し努力、進むのが自然なんだろうと思う。

クラスの連中も、圧倒的にそういう予想をしている。
「どっかにゃ引っかかるだろー?中野(俺の苗字です)は、なんだかんだ成績イイしー」
ってな具合に。

けど、それがこのごろ、妙に不快なのだ。

みんなが俺に対して抱いてる固定されたイメージを、
この際ドカーンとぶち壊したいっていうか。

・・・・あぁ、彼女に逢いたい―。
めくるめく時を彼女と過ごしてみたい。

とにかく、だ。
このままこうしていると、ユーウツがさらに増幅、
ベッドにズブズブ沈んでいってしまいそう。
じっとしてると情緒不安定が最高潮になっちまいそうだ。

そんな思いにせかされるみたいに、パーカーをはおって外へ出た。

◇◇◇

無性に彼女に逢いたい。

金木犀の香りが甘ったるく匂ってきて、その香りに秋の深まりを感じる。

自転車に乗った子供たちの元気さに、
“少しはその元気分けてくれー”と思いながら
俺は交差点を渡り、けやきの植わった坂道で立ち止まった。

ここにいれば、彼女に逢える。
いや、正確には「彼女が通る姿を見ることが可能」なのだ。

3年の俺たちは今日、学校で実力テストがあり、他学年より早く下校している。

時刻は3時半になろうとしている。

彼女は部活には入ってないようだから、いつもこの時間にココを通るはずなのだ。

足音がするたびにハっとして顔を上げる。
ウチのガッコの制服を着たヤツらがちらほらと登場し始めている。

そろそろかなー。

明日の朝までずっとここに立っていたら
確実に通学途中の彼女に逢えるんだけど。
「あ、この人、前に屋上で話した人だ。今日はこんなところでどうしたんだろう」
くらいは思ってくれるかな?
氷のように冷たくなって立ってる俺を哀れに思って、あたためてくれたりして。

つまんない妄想だけど、なんだか涙腺がゆるんでくる。

何分ほどが経ったのだろう。
不意に彼女を感じた。
そう、今の俺はエスパーなのだ・・・
まだ遠くにいて、小さな姿しか認められないけれど絶対に彼女だ。

俺はさりげなく、彼女のほうへと歩を進めた。
彼女はいつものように背筋をスっと伸ばし、歩いてくる。
結わえられた長い髪が神々しくて、とてもイイ。本当によく似合っているんだよね。

彼女の視界に俺の姿が入っただろうという頃合を見計らい、「やぁ」と手をあげた。

「あ」
「今、帰り?」

はい、とうなずく彼女に
「じゃ、またね」と言うと、すっと彼女の脇を通り抜ける。
本当はもっと話したいけれど不自然な行動はけっして良い結果を招かない。
―今のこの行動も若干、不自然なのかもしれないが。

そんなことを思い巡らせていると、彼女のうしろに、ある少年の姿を認めた。

―また、こいつか。

いつも彼女の近くにいるこの中学生男子。
最初は弟クンかな?と思ったのだが、
どうもこの少年の様子を見ていると
”弟”では符合しない部分が多い気がしてならず、
リサーチしてみたところ、彼女に兄弟はいない、ということが判明した。

近所にでも住んでいるんだろう。
タメで彼女と話しているし、
朝も一緒に登校しているようだし、下校時間が重なっているようなときもいつも。

気になる。しかし、まだ中坊。

って、気にしている俺のほうがどうかしているな。
そもそも俺と彼女の関係なんて、吹けば飛ぶような薄っぺらなもんなんだから。

◇◇◇

あれは、小雨降る初夏の頃。

昼休み、
天気が悪いから誰も屋上に出ていないだろうと思って
俺は屋上に続く重い鉄のドアをギイと引いた。
ひとりで物思いに耽りたくって。
現実逃避もはなはだしいのだが・・・。

屋上は床が濡れ、湿っぽくて、ムっとむせかえる雨の匂いがした。

開いたドアに遮られて最初は見えなかったんだけど
階段室の壁にもたれかかるように彼女がぽつんと立ってて。

だからって、いきなり帰るワケにもいかず、
しどろもどろに少し話したんだ。

その―、彼女のことは知っていた。
「2年にいる髪の長い、ちょっとキレイなコ」って程度には。

雨なのに、
昼休みなのに、
ひとりでどうしてこんなとこに?

訊ねた俺に
「あなたこそ、どうして」
そう言って微笑んだ彼女は、とてもキレイだったんだ。

  「なんとなく」

  「私もです」

  「偶然、自分と同じような人間に会えてうれしい」

  「はい」

―そんな会話を交わした。
話が弾んだなんてことはなくて
ただ、点いては消える、そう、いわばデジタルな会話を。

結構、イイ雰囲気だったな。

なんかこう、俺を見上げる彼女のまなざしは
清楚なんだけど妙になまめかしくて
心の中に劣情ストームが吹き始めて
初めて逢ったキレイな彼女に俺は一瞬、クラっとした。

昼休みの終わりを告げるチャイムが恨めしかった。
ほんとうはこのコともっとここにいたいと思った―。

教室に戻る途中、
彼女の名前とクラスを知った。

それ以来、
俺の心の奥にあかりが灯ったようになって
それで情緒不安定にもなり始めて

つまりは彼女に恋をしたんだ。

~fin.~

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author: lala (ララ)

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