焦燥/1

良守編|2016/11/01 posted.

このところの良守は、夜毎の時音との逢瀬に次第に息苦しさを感じるようになっていた。

時音、高校2年生。
ぐんとキレイになったのが、傍目にも容易にわかる。
閃などは、「何気にそそる女になってきたじゃないか」とにやり。

凛とした雰囲気をまとっている彼女は、近寄り難い反面、
ふとそのガードを崩してしまいたい欲望にかられる面があるのも事実で。

時音の魅力が日毎、花ひらいている現実を前に
良守はとかく胸の高まりを抑えるのに一苦労なのであった。

 

 

そんな、12月初旬のある日―。

 

5時間目の授業が教師の都合で早めに終わり、
墨村良守はクラスメイトの市ヶ谷と共に学食へやってきた。

「6限まで、まだ20分ほどあるな」

市ヶ谷が言い、二人はテーブル席に落ち着く。
それぞれコーヒー牛乳とジュースを手にしていて嬉しそうだ。

・・・こんなことで頬を緩めているのだから、まったくもって幼稚なものである。

 

そこへ、ドヤドヤと無遠慮にやってきたのは高等部と思しき男子生徒たち。

彼らの会話が二人にはよく聞こえた。グループなので声が大きく、目立つ。
内容から察するに、どうやら体育の授業が休講になった様子。

 

良守たちの座るすぐ隣にいる高等部生徒が
「吉川~!」と手をあげたため、彼らがやってきて、テーブルにつく。

その、“吉川”と呼ばれた男子生徒は、グループの中心人物のよう。
同性の良守や市ヶ谷から見ても端正な顔立ちをしているが
手をあげた男子生徒にかけた言葉に品性がない。
「なんだ、お前もココで女のコ見学か~?」などと薄笑いを浮かべている。

コーヒー牛乳やジュースを嬉しそうに飲んでいる中等部男子からすれば、
こういう光景を目にするのは気後れするものの、多少は新鮮でもある。

が、しかしそのとき、良守の平穏を乱す一言が発せられた。

 

「お、雪村」

 

吉川が運動場に向かって顎をしゃくる。思わず、良守と市ヶ谷も運動場へ目を向ける。

 

「女子はご苦労さんだナ。俺らは休んでくれた児島センセに感謝だぜ」

 

彼らは時音と同じクラスの男子たちらしい。
いや、体育は2クラス合同で行うから隣のクラス男子かもしれない。

いっぽう女子のほうは“教師が休む”などという幸運には恵まれず、
来るクロスカントリー大会に向け、寒空の下、一団となってランニングしている。

 

「いいねぇ~」
「わ、雪村のうしろのコ。なんてったっけ?すげーな、あの胸」
「松井さおり」
「お前、詳しいね。隣のクラスのコなのに。しかもフルネームで」
「ふん、把握してなきゃな、こういうコトは。いつ何があるかわかんねーだろ?」

 

ワケのわからないことを言うと吉川は目を細め、
慣れたように素早く女のコたちの品定めを始めた。
この彼は先天的な女好きに加えて日々の訓練も欠かさぬ、
ある意味においては実に見上げた男なのである。
女のコのランクづけなんかをやらせれば、彼の右に出るものはいない。
プレイボーイを気取るには“華やかな容姿”という礎、そして地道な努力が必要なのだ。

「あ、あのコ。体のセンから見て完全に女になったな。
ほらあの髪の短い先頭集団のコ。えっと・・・近藤だっけ?」

「え」

吉川の言葉に高等部男子グループ、いっせいに身を乗り出す。
隣のテーブル、良守と市ヶ谷も思わず、その女子高生の姿を追ってしまう。

「近藤が、か?」

「あとは?」

「そうだなぁ~、8番目、9番目・・・あたりも怪しい。なんだか寂しいな」

感慨深げに吉川が腕組みをすると、周りの男子も寂しそうに“まったくだ・・”と、うなずく。

「お前の判定って、妙にリアルでヤだよなー」
「信憑性高いだけに切なくなるわー」

隣のテーブルで良守は露骨にイヤな表情をしつつも
一言一句聞き漏らさぬよう静かに努める。
市ヶ谷も興味ありげに黙々とジュースを口にしつつ、しっかりと聞き耳を立てている。

そう、彼らにとって今現在、この手合いの話は何よりのごちそうなのだ・・・・。

(待てよ?もしや時音のことなんかも言うんじゃ―?)

良守がそう思ったときだった。

「まだだな、雪村は。あのコは大事にしてやりたいな。誰にも触れさせたくないぜ」

瞬間、良守の心臓が飛び上がる。思わずゴホゴホとむせてしまった。

不潔な話を時音相手に展開されていると思う、それだけで良守の胸中は穏やかでない。
そんな話の中心にあいつを据えるなよ・・・!

「なんだよ?らしくねーじゃん、吉川」
「まさか雪村狙いとか?あれはームリだろ、いくらお前でも」

すかさず、周りが冷やかしにかかる。
あはは、確かに彼女はなー・・・と笑ったあと、吉川は続ける。

「だってさーあのコが男と・・なんて想像してみろよ?なんかすげー気分悪い」

「ま、確かにそうだよなぁ。つーかさ、こんなふうに遠巻きにしてるうち、
知らないヤツに持ってかれるってパターンかもな」

「それ、ありえる。ウチら、けん制しすぎ?」

「・・・杉沢あたりがなんかやってくれそうだけど」

「いやーヤツはまともに相手されてねーって。俺、見たもん、修学旅行で」

あれはビミョーに哀れを誘う光景だったぜ・・・と話す高等部男子たち。

良守の表情が緩む。
(そーかそーか、時音よ、グッジョブ!!)
にんまり笑う良守に、市ヶ谷がゴホンと軽く咳払いをした。

「ウワサをすれば」

そう言って高等部男子たちが誇らしげに運動場のほうを見遣る。
良守たちもそれに倣う。

2位に3メートルほど差をつけ、トップを走る時音がコーナーを回ってこちら向きに走ってくるのが見えた。
結わえられた髪が寒空の下、北風にそよいでいる。

「あの表情、さすがにイイねぇ・・・」
「彼女、わかってんのかねぇ?ウチらがどんだけ想像かきたてられてるか」
「まったく。もうすぐクリスマスだしなー・・・」

不意に吉川が言う。

「そーいや、クロカンのあと、どう?慰労会」
「お、イイねぇ。1年のときもやったわ、俺」
「キレイどころ集めて、さー」

そんなことを口々に言いながら高等部男子たちは連れ立って教室へと戻っていった。

 

あとには、彼らのきわどい会話に
少々あてられ気味の中等部男子二人がぽつねんと取り残されただけ。

良守は飲み干した紙パックをギュッと握りつぶし
「高等部のヤツらって、感じ悪くね?」 半ばふてくされて市ヶ谷にこぼす。
「・・・・今の墨村も相当、感じ悪いと思うが」
ぼそり、市ヶ谷がつぶやいた。

 

◇◇◇

 

その日の放課後、学校からの帰り道、肩を落として良守が歩いていると

「よぉ」

影宮と秋津秀がいつものごとくやってくる。

元気のない良守に影宮が「また雪村関係か」とためいきをつく。

「ほんっと・・・世話のやけるヤツだな。今度はどーした?話してみ?」

「そりゃ、高校生だからなー。よかったじゃん。大事にされてんなら心配ないな」

良守から食堂での出来事、その概ねを聞きだすと、閃は笑った。
しかし、良守の表情は曇ったまま。

「高校生って・・・やだよな」

時音の周り、そんなに狼な男ばっかなのかなーって思った・・・良守はためいきをつく。
ぶっちゃけ、妖より凶暴じゃねーか!おまけに慰労会だと?ぶつぶつ言っている。

「いやいや、良守。お前もそうじゃん。もしものときは抑制きかねーだろ。
この時期、中学生も高校生も男はなー・・・てかまだ高校生のほうがマシかもな」

もしものときって何だよ?、真っ赤になる良守。
そんな二人のやりとりに、高等部1年男子の秋津秀は思わず吹き出してしまった。

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author: lala (ララ)

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