焦燥/5

良守編|2016/11/01 posted.

木製の扉を開けると、店内はすでに賑わいを見せており、
「遅かったじゃない」「ごめんごめん」 そんな会話が繰り広げられていた。

 

「アルコール、一応、OKってことになってるから」
「自己責任のもと、適当にドリンク頼んでねー」

例の吉川企画の男子たちが、にこにこと笑顔を振りまいている。

 

学校の教室くらいのスペース。カウンター席もある。
BGMに少しジャジーなクリスマス曲が充満している。
雰囲気はカフェバーと居酒屋の折衷といったところだ。

 

(思ってたよか、広いな) 素早く店全体に目を走らせる良守。

 

30代と思しき男女もいる。
どうやら大人のフリをしている高校生たち以外にも客はいるよう。

(貸切ってワケでもなさそーだし、これならなんとかバレずに潜んでいられそうだぜ・・・)

 

明らかに烏森の生徒だろうという面々に視線を向けると
すでに何人かは血液中にアルコール成分を少しばかり摂取し始めている。
普段は折り目正しい真面目な進学校生徒として過ごしているだけに、
今夜の“背伸びスタイル”が彼らを日常から適度に解放しているようだった。

 

時音の姿を捜すが確認できない。

(まだ来てないのか)

良守は奥のテーブル席、その端っこのイスへ腰を下ろし、かぶっている帽子をさらに目深くした。

 

微量とはいえ、アルコールの力も手伝って、
店内のテーブル移動率も徐々に上がり始めているようだ。男子も女子もみんな楽しそうに談笑している。

良守は上目遣いにそんな状況を眺めた。

(いい気なもんだぜ、高校生のくせに酒なんか飲みやがって)

にしても・・と良守は時音を捜しながら思いをめぐらせる。

まぁまぁイイ店だよな。
こんな雰囲気のとこに、近い将来、時音は行ったりするんだろーか、
・・俺を置いて、ひとあし先に。

瞬間、いいようのない寂寥感に包まれた。
鼻の奥がツンとなる感覚に陥る。

 

そのときだった。

 

「おい」 突然、脇をこづかれた。

 

「な・・・・影宮、お前、ナニしてんの?」

ビクっとして驚く良守をあきれた表情で閃が眺めていた。

「それ、こっちのセリフ。あのなー・・・」

雪村は来ねえぞ、不参加、と閃がささやいた。

 

「え!?」

 

思わず、良守が席を立つ。ガタン!と大きな音がした。
近くにいた客の視線が一斉に良守へと向けられる。

 

「よ・・・良守くん」 まどかが驚いた表情で良守を見ている。
吉川企画の面々も同じく、びっくりしている。

 

「時音、欠席だよ・・・」

 

まどかの言葉に、良守は顔を真っ赤にしてうつむく。
そしてバツが悪そうに、ダっと逃げるように店を出て行った。

 

◇◇◇

 

「良守くんのお友達?」 まどかが、あとに残された閃に話しかける。
よっぽど心配なのね、時音のこと・・・微笑む彼女に、ためいきをついて閃がうなずいた。

「・・・・・何なんだろな、あの彼は」

吉川がいつのまにか二人の傍に来ていた。
“雪村のボディーガードか何かのつもりか?”
苦笑しながら、淡いピンクの液体のはいったグラスに口をつける。

「遠巻きにしてるウチ、持ってかれるかも?とは言ってたんだけどさ」

まさか、あの中坊がそれ?てこたぁないよな~・・・吉川企画の面々が口々にこぼす。

「ほんと・・・うらやましいナ、あんな想われて―。」
彼のまっすぐさ、少しはアンタたちも見習いなさいよ~、まどかが言う。

「いや、さ。あの彼のことはよくわからんのだけども。
ただ、なんかさ、雪村には今のまま・・・変わらずいてほしいっつ~か。
俗っぽいモンには呑み込まれてほしくない・・・俺、わりとマジでそう思うわ」

うまく言えないが、という吉川の言葉に、みんなうなずくみたいにして寂し気に深呼吸した。

 

と、ガヤガヤしていた店内に
ひときわ大きな音量で聴きなれた音楽が流れ始め、一瞬、みんな顔を見合わせる。
アップテンポなのに、なぜだか切なさを煽るそのメロディーライン。
店内いっぱいにクリスマスムードが充満する。

「せっかくだから」

吉川が閃にジンジャーエールの入ったグラスをそっと差し出した。

 

 

 

頼んでおいた革の手帳を受け取ると、時音は駅前のデパートをあとにした。
暖房の効いた売り場から外へ一歩踏み出すと、キン!と冷えた空気が肌を刺す。
一瞬、寒さに瞳を閉じる。
手袋をはめたそのままの手をコートのポケットにそっと差し入れる。

 

冬休みまで・・・
いや、イブまであと10日を切っている。

一年のうちでも一番華やぎのあるこの季節。
見渡せば、街のあちこちにはクリスマスツリーが飾られ、
LEDを使った最新のイルミネーションはきらきらと瞬く星のように光を放っている。

 

そのなかを歩く。

ほんの少しだけ、ゆっくり。

イルミネーション、その美しさに見とれながら。

 

そして足をとめた。

―見知った顔に、遭遇したせい。

 

お互いの名を呼んだのはほぼ同時だった。

 

「何、してんだ」
「何、してんの」

 

訊ね合ったのも、ほぼ同時。

 

「お、お前!どこ行ってたんだ、俺―」
心配で・・と言いかけ、良守は口をつぐんだ。しまった!と思わず口を押さえる。

時音は、そんな良守の姿を怪訝そうに見つめていたが、不意に思い当たってハっとした。

「・・・・・」

半ば怒った表情をしながらも、どこか情けなさを漂わせて。
決まり悪そうにポケットにもぞもぞと手を突っ込んでいる―。

そんな、目の前の少年。

 

「・・・・・・・もう・・。」 小さな声でつぶやくと、時音は黙ってうつむいた。

 

良守が顔を上げる。
内心、バレたか?と焦るも、時音はうつむいたまま何も言わない。

胸の鼓動が速くなる。気持ち悪いって言われたら俺・・・・
不安が渦巻き始めたとき、時音がぱっと顔を上げた。

まずい、何か言わなければ―。
どぎまぎする良守の耳を、不意に優しい声が撫でる。

 

「良守。・・・帰ろ?」

 

並んで歩く。黙って歩く。
冬の夜をふたり。
いつもよりほんの少しゆるやかな速度で。

 

今はもうほとんど身長の差を感じない時音の横顔を、良守はそっと盗み見る。
冷気にあてられてか、白い頬がほんのりピンクに色づいている。
形の良い引き締まったくちびるも、いつもより桜色が増しているようだ。
化粧などせずともじゅうぶん美しい時音。
そのままの、彼女の飾らぬ美しさに小さな感動をおぼえる。

今日はあの店で化粧をした女子高生たちを何人も目にした。
みんな大人っぽくてキレイに見えた。

 

だけどやっぱり。
やっぱり、俺は。

 

いつのまにか良守は時音から視線が外せなくなっていた。
ほんの50センチほどの距離を隔てて、まばたきするのも惜しいみたいに時音を凝視する。

 

キレイだから、じゃない。
そんなのだけじゃないんだ―。

 

心の奥、最近の出来事がスローモーションで浮かんでは消えていく。

つまんないジェラシーで胃がヒリヒリしたこと。
吉川と歩く時音をヤツから引っぺがしてやったこと。
枕相手にディープキスなんかやっちゃったこと。
「アルフィー」で時音を捜すうち、すごく寂しくなったこと。
きまり悪くて店から逃げ去ったこと・・・・

まだまだ無数の断片がチカチカ点滅している、まるでツリーのイルミネーションみたいに。

 

これから先、何度、こんな気分を味わうんだろう。
追いつけなくて。
ただ、焦るしかなくて。
こんな思いを俺は、あとどれくらい抱けばいい?

 

ねぇ・・・教えてよ、時音。

 

くちびるから白い吐息が、そっとこぼれた。

 

~fin.~

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author: lala (ララ)

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