ジンクス

良守編|2016/12/21 posted.

冬休み初日の夜、
うつむいて歩く神田の歩調に合わせ、俺はけやき坂をのぼっていた。

そうだな、まずは。
どうして俺が、夜道を神田と並んで歩いているのかを説明すべきだろう。

 

◇◇◇

 

今年の2学期終業式はイブだった。

霊感の強い神田にとって烏森は、俺たちと少しばかり似た意味で脅威のはず。
何かあれば言ってくれと俺は彼女に常日頃、話している。

そんなこともあってかきのう、終業式の帰り道、「実はこのごろ・・・」って話を打ち明けられたんだ。

「霊の見える頻度が高くなって怖い」 神田がすがるようなまなざしを俺に向けた。
「そう怖がることはないさ。何か悪さをしてくるワケでもないんだろ?」
「うん、でも目が合ったりなんかするとビビっちゃうよぉ」
「はは、そりゃそーだよな・・・」

ひそひそ声で(あまり人前で堂々とするよーな話じゃねえし)、俺と神田が話していたそのとき。

俺らの横を不意にスっと追い抜いていく影に気がついた。

 

「時音」

思わず俺は声をあげていた。
だけどひそひそ話の続きだったもんだから、それはただ小さなつぶやきでしかなくて。

結局、時音は俺の呼びかけが聞こえたのか聞こえなかったのか、素知らぬ顔で通り過ぎていった。

 

だけど、と思う。

 

声が届いたかどうかはわからないけれど、俺が前方にいたこと、気づかぬワケがない。
それでも時音は素知らぬ顔で行き過ぎてしまう。

 

まったく。
らしいといえばらしいんだけどさ。
二人だけのときなら(ヒジョーにささやかだが)反応を示してくれる。
だけどこんなふうにほかの誰かのいるところじゃ、いつもあいつは他人顔。

 

どんどん小さくなるその背中を
俺はいつのまにか立ち止まって見つめていた、そう、神田に呼ばれるまで。

「ん?あ、ああー霊ね。」 慌てて俺は神田との会話に意識を戻した。

「・・・・・・・・・・。」

俺をふり仰ぐ神田の表情はなんだかさびしそうで、だから俺は少し焦って言葉を探した。

「よく見るのはやっぱあれか、塾の帰り?」

よっぽど不安なのだろう。黙ったままコクンとうなずき、下を向いた。
彼女の心細さが伝わってきた。
いたたまれなくなって俺は進言したんだ。

「神田の不安が小さくなるまで、塾のあとウチまで送ってやるよ」

 

◇◇◇

 

―と、まあ、こんなワケなんだよ。

もうすぐ彼女の家へ到着、というとき、

「今日はどうもありがとう。少し気持ちがラクになったから・・・」
だからもう今度からはイイよ、大丈夫、ひとりで帰れるよ、そう言ったあと、

「ほんとは、きのう渡すつもりだったの」

はい、と神田は小さな包みを俺の前に差し出した。

「え」

ワケもわからず俺は彼女から受け取った小さな白い包みを眺める。
包みには、小さなリボンが遠慮がちに結ばれていた。
ブルーとシルバーのそのリボンが、白い包みに品よく映えていて、なかなかいい。

「これ・・」
「いつもお世話になっているから―」

イブに渡せなくて、そう言ってちょこんと神田が小さく首を傾げてみせた。
女の子っぽいそのしぐさがちょっとばかりかわいくて、俺はなんだか気恥ずかしくなってしまった。
気を取り直して包みを開けてみると、青く小さなお守りが行儀良くおさまっている。

「・・・・墨村くんが元気にお仕事できますようにってことで~」

言いながら神田は、妙にぎくしゃくした歩行で家のなかへ消えていった・・・。

 

 

その夜の烏森。

 

「あんた・・・やけにゴキゲンね」

―なんかあった?

時音の問いに慌ててブンブンと首を横に振る。
なんとなく、だったけど、時音に知られるのはまずい気がして。

時音はしばらく怪訝な表情で俺を見ていたけど、結局プイっと顔をそむけた。

きのう、学校からの帰り道、
神田といる俺に少しくらいは感じてくれただろうか。
常々、俺がよく抱いているモノ、嫉妬ってヤツを。

そんなことを思いながら、ちらっと時音を見る。
・・・・どう、思うんだろう。
女子からもらった元気お守りが効いてるようで・・・なんて言ってみたら。

ふと、いたずらゴコロが芽生えた。

「俺さー実は今日・・・」 言いかけたとき、

「しっ!来たよっ!!」

・・・いつもコレだよ、妖侵入だよ。

・・・・・・・・。
少しばかり、気持ちがゆるんでいたのが原因だろう。
今夜はかなり苦戦を強いられることになってしまった。
時音に危ういところを助けられた一幕まであったり・・・・。

集中力欠如はダメだなとあらためて。

反省だ。

「・・・・ごめん俺、集中、欠いてた」

怒られる前に頭をさげた。
本当に悪いと思ったんだ。
こんな稚拙なミス、ここまで危ういことなんて、最近は皆無だったから余計に。

調子に乗ってると思われてるかもしれない。
俺は情けなさと恥ずかしさがないまぜになった気分で、まともに時音に対峙できずにいた。

「何やってんの!仕事ナメてんじゃないわよ!顔洗って出直してきな!!」
さんざんな言葉を浴びせかけられてもしかたない、そう諦めていたのに。
いや、いっそ、それくらいの言葉が今は逆にありがたい。戒めてもらったほうがイイ。

が、予想に反して、そんな言葉が時音の口から発せられることはなくて。

(どーした?)

何も言わない時音を不思議に思って顔を上げた。
するとそこには、眉根をひそめ心配顔でいっしょうけんめい俺を見つめる時音がいた。

 

―なんだよ、どーしたっていうんだ?

 

「・・・・いつもと違うことしたら、ダメなのかもしれない」

「え?」

「・・・・いつもと少しあんたのとこ、文言変えたの。だから」

「文言?俺の、とこ?」

 

首を傾げて時音を見る。
と、いきなりプイっと顔をそむけた。
・・・おいおい、さっきまでの心配顔はどこへ行ったんだよ?

 

次にあいつの口から出たのは、

「帰るわよ!」

―仕事終了の合図だった。

そして時音はスタスタと先をゆく。烏森を出る。

「おいっ!待て、文言ってナンだよ?俺のとこって何なんだよ?」

 

慌てて時音を追う。
追いながら同じ質問をくりかえす。
答えない時音、訊ねる俺。
数回、そんなやりとりが続いたあとに。

 

「あーもうっ!」

振り向かず、そして立ちどまることもなく時音が不機嫌に言い放った。

「いつも出勤前、お仏壇に手を合わせてるの!今夜も無事に帰って来られますようにって。
で、ついでだから一応・・・・。」

ラストのところ、時音にしては珍しく口ごもったような感じでよく聞き取れない。
聞き返そうとしたけど吹きすさぶ木枯らしの音にかき消されてしまった。

そして、もはや“歩く”なんて速度じゃない有様で突っ走る時音が最終の締めにかかる。

「少~し変えたらこのザマ。ごめん!!」

ご、ごめん?・・・謝ってる?―って、なんで??

はっきりワケを聞きたくてダッシュをかけたがもう遅かった。あいつは超のつく俊足だ。

 

結局、俺たちは全力疾走、本気の中距離レース・・・。
言葉を交わす余裕などないままに自宅へ戻るハメになってしまった―。

しかしゼエゼエと息を切らしながら、そのくせ俺の気分は上々だった。
本意はハッキリとはわからないけど、俺にとってうれしいことなのはなんとなくわかったから。

 

部屋に戻ってパジャマになり、布団にもぐりこむ。目を瞑る。
さあ、しっかり寝なきゃな。わずかとはいえ、朝食までの睡眠は重要だったりするんだ。
眠りが深いから疲れがとれて―って、くそっ!こんなイイ興奮してちゃ眠れそうもない・・・

~fin.~

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