指さき

良守編|2016/12/21 posted.

手だけが触れていた。
息をひそめ、気配が薄れるのを待っている。
良守は指さきに力をこめた。

 

 

今夜の妖は特別だった。
うわさには聞いたことがある。
若い娘を狙うという不埒な妖の存在。
時音をひとりにはしておけない状況に追い込まれ、結局、長々と時間だけが経っていく。
唯一の救いは朝まであとわずか、ということだ。
それまでのあいだ、なんとしてもヤツの目から時音を隠し通さねばならない。

 

―つめたい手だな。

 

ひょっとしたら今夜の時音は
心のなかまで凍りついているのかもしれない、と良守は思った。

 

言えるものなら、その耳もとでささやいてやりたい。
―大丈夫だ、俺が守ってやる、何とかしてやる、と。
だが今は、外の敵に自分たちの気配をさとられてはならない。
だから良守は指さきにそっと力を入れるよりほかに時音を安心させてやる術がないのだ。

 

気配は確かに薄らいでゆく。

 

(明日になったら、俺が必ず滅してやるからな。お前は家で待ってろ)

 

両手で時音の手をやさしく包むように握りこむと、
つめたかった彼女の指さきは、ほんの少しぬくもりを取り戻したかのように感じられた。

 

もう大丈夫だ。
・・・・・・・・・・。
・・・お、おい。お前、もしかして震えてるのか?
・・・・・・・・・・。

 

ゴ○ブリには異常な怯え方をする時音だが
普段、ちょっとやそっとのことで恐れおののいたりなどは絶対にしない。
今夜の敵は、女の本能的な部分を恐怖のどん底に陥れる妖なのだった。

 

だけど大丈夫。
ここに俺とこうしていれば平気だ。
もう少しの辛抱。

 

やさしく絡ませる指さき。
時音も良守の指だけを頼りに今、すべてを委ねるかたちとなっている。
指さきだけが語り合い、次第にそれが少しずつ饒舌になってきていた。

 

 

完全に気配が消え失せたとき、
良守はふと、今、この狭く暗い空間に時音とふたりきりなのだということに気がついた。
すばやく結界で地下に穴をつくり、そこにふたりはひそんでいるのだ。

 

絡めたままの指さきから伝わる熱。
清潔でいて、ほのかに甘い彼女の香りが鼻腔をくすぐる。
互いの息づかいだけが聞こえる。
心臓の音が聞こえてしまいそうなほど近接した状態のなかに―。

 

良守は不意に、体のなかを衝きあげてくるものを感じた。
瞬間、ごくり、とのみこんだものは唾液だけではない。
・・・邪な欲望をも良守はのみこまねばならなかったのだ。

 

いつも強気な時音が、俺だけを頼りにここで震えている。
いっそこのまま抱きすくめてしまいたい。
そのほうがきっとこいつも安心するはず・・・・・いや、だめだ。

 

都合のよい理屈をこねて、その実、時音に触れたいだけだ。邪念が渦巻いている。
良守は自分のなかの男が、油断をすればすぐに顔を出しそうになるのをこらえていた。

 

いっぽう、時音は
外の敵が女の自分にとって強敵であることを自覚し、恐怖におののいた。
が、気配の薄らいだ今は、その恐怖が次第に怒りへと変わりつつあった。
そんな状態だったものだから、
よもや良守が、衝動と必死に闘っているなどということは知る由もなかった。

 

 

夜が明けて、穴から出たとき、
良守の表情は疲労の色が濃く、時音はそんな彼を優しく気遣ってみせた。

 

「大丈夫?」

「ああ・・・」

(・・・大丈夫じゃねえよ)
良守は不機嫌に時音から顔をそむけ、心のなかでつぶやくしかなかった。

 

 

翌日、時音を自宅待機させ、良守はこの不埒な妖を見事、滅した。
助っ人に来てくれた閃と秀が
昨夜の穴のなかでの時音の怯え方、そしてずっと手を握り合っていたことを良守から聞く。

 

「ビミョーにエロい光景だよなーそれ」

閃が多少、うらやましそうに言う。

「なっ・・・なんでだよ」

「暗闇のなかに二人っきり。しかもあの雪村が怯えてる。
で、互いの指を絡めて安心感を得る。なんつ~か指さきの会話って感じがさ、なんかやたらとエロい。
・・・ほかも絡めたくなってたんだろ?良守お前、よく耐えたよな~」

絶好のチャンスだろ、それ?俺なら、ここぞとばかりに―。
案外、あの女もそんな状況下なら・・・・惜しいことしたな。てか、俺には耐えられない!

「でもよかったじゃない、時音ちゃんが無事で・・その~、良守くんからも」

秀がうなずきながら言うと、良守は真っ赤になって大否定。

「まぁまぁ。無事でよかったってことだよ」

しみじみとうなずきあう秀と閃に、良守は言葉が継げなかった・・・。

 

 

後日、正守から良守に電話。

「なんだよ?」

「大変だったらしいなー、あの女好きの妖」

「・・・・・影宮から聞いたのか?」

「ん、例の”絡めた指さき”も・・ってこれ、演歌のタイトルみたいだな。
ああ、ごめん!お疲れ様だったな、いろんな意味で」

「い、いろんな意味っ・・・・」

「兄としては少々、物足りない気もしたが。まぁ、紳士なお前を褒めてやろう」

「切るぞっ!」

「まぁ、待て。実は折り入って頼みたいことが・・・」

「断る」

「そう言うなよ?」

「・・・・・・・・」

 

冬休み中に頼めるかな?という正守のセリフを最後に電話を終え、
ふと良守は感慨深げに自分の指さきを眺めた。

男にしては長くて細いほうかもしれない。きれいと褒められたこともある。
器用そうにも見えるその指は、妖を遠隔操作で倒す操縦カンのようなもの。
ここに、このあいだ時音の指が絡められていたのだ。
隙間のないほどに密着させた状態で、白くて細くて長い、器用そうな彼女の指が。

閃との会話が思い出される。

―ほかも絡めたくなってたんだろ?良守お前、よく耐えたよな~
―絶好のチャンスだろ、それ?案外、あの女もそんな状況下なら・・・・惜しいことしたな。

(ちょっともったいなかったな、もう一歩踏み込んでもよかったかも・・・)

そこまで思って、良守はぶんぶんと大きくかぶりを振った。

 

 

その頃、雪村家の風呂場、
ガーゼの袋に包まれた柚子が、ぽかりと湯の中に浮かんでいた。
湯船にゆっくり時音は肩までつかった。冷えた足の先までじっくりと温まっていく。

(このあいだの良守の手、あったかかったなぁ~)

微笑むと時音は柚子を手に取り、匂いをかいだ。
湯気の中に甘酸っぱい香りが、たち昇ってゆく。

~fin.~

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