Rainy day

良守ではない誰か編|2017/05/11 posted.

風が吹いた、6月のある日。

 

歩み寄ると素早く反応し、なめらかに開く大きな透明ガラスの自動ドア。
そこを通って影宮閃は30階建てのビルから外に出た。

「こりゃ、ひと雨くるな」

そうひとりごちたとき、どんよりと曇った空から大粒の水滴がパラパラと落ちてきた。
そして次の瞬間、空はいきなりバケツをひっくり返したような豪雨に変じた。

「げっ!」

慌てて傘を広げたものの、白いシャツの肩はすっかり透けてしまった。
憂うつな気分で、彼は東に見える階段に視線をのばした。
幅の広い階段を、ひとりの女がちょうど降りて来たのが見えたからだ。

 

若い女だということは、彼女の足もとを見ただけでわかった。
きれいなヒールのある、夏色のパンプスをはいた彼女の足が、階段を降りてくる。
そして階段を降りきった彼女の足は、閃のほうに向かってまっすぐに歩いてきた。
閃は、彼女の足もとに視線をとめたままでいた。
雨の中でも、軽快な弾みのある気持ちの良い歩き方をしていた。

 

閃は少しずつ視線を上げていった。

 

レインコートの裾。
コートの下の両脚。
コートに包まれた腰。
コートとその下に着ているもの、そしてその体とのバランスの良さ。
コートの胸もとのふくらみ。
白い顎。

 

閃の視線は、彼女の顔にたどりついた。

 

彼女は、笑っていた。
驚きながらも喜んでいる。そんな笑顔だった。
そして彼女の視線はまっすぐ閃に向けられている。

 

「ゆ、雪村・・・」

 

偶然の出会いに閃は思わずその場に立ちどまった。
いっぽう、彼女は閃に向かってそのまま歩いてきた。
閃の前で立ちどまり 「久しぶり」 と、彼女は感嘆するように言った。

「びっくりしたわ、こんなとこで会えるなんてね」

「・・・元気そうだな」 そう言って閃は、時音をまじまじと見つめた。

「髪、切ったのか」

頭の高い位置でひとつに結わえられていたはずの長い髪は今、
肩にかかるかかからないかくらいの長さにまっすぐきれいに切りそろえられていた。

「切ってから会うの、初めてだっけ?」 “ほんとうに久しぶりなのね” そう言って時音は笑った。

そして上体を軽くひねって自分の歩いて来たほうを示し、

「あの階段を降りながら、すぐにわかったの。微妙に背中を丸めて歩くところとか、雨に降られて面倒くさそうにしてるところとか・・・変わらないわね、あんたも」

 

ふたりの視線が交差して、それからほぼ同時にクスっと笑った。

 

「俺、急いで戻らなきゃならないんだ」

「うん」

「あのさ、今夜・・・」

“銀座で会わないか” 閃の誘いに、時音がうなずいた。

 

いま自分が出て来た建物に向かって歩いていく時音を、閃はそこに立って見送った。
レインコートの裾から出ているかたちの良いふくらはぎと、リズムのある足の運び。
降りしきる雨のなか、夏色のパンプスが宝石のように輝いて見えた。

 

~fin.~

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