きれいな悪夢(閃時)

良守ではない誰か編|2014/04/17 posted.

はじまりは、秀のひと言だった。

「時音ちゃんのうなじってキレイだよね」

学校帰りに、何気なく。
さらり、あっけなく、秀が口にしたひと言。

以来、その言葉が頭から離れない。

「色白だからナ、雪村」

“だからじゃね?” 興味なさそーに答える。

「うん。ほんと、時音ちゃん、色、白いよね」

“色白のコってたくさんいるけど、時音ちゃんのはちょっと違うなぁ”

確かに、と思う。
いわゆる、白人のソレとも違うのだ。
もっと透明感がある。
なんというか、桃色が入ったような・・・・淡くてそれでいて健康的で適度に潤ってそうな―。

「閃ちゃん?」

秀が訝しげに俺を見ているのに気づく。
ハッとして話題を変えた。

◇◇◇

「時音、友達と寄り道してくるとかで少し遅くなるんですって」

“さっき連絡があってね”

雪村のおばさんが忙しそうに夕食の支度をしながら俺たちに告げた。

今夜も雪村家の夕飯に招かれた俺と秀は、ほぼ同時に顔を見合わせた。

「時音ちゃん、寄り道とかするんだ・・・」

秀が驚きを口にした。

おばさんは、フッと笑って

「何、意外?あのコ、結構そーいうことするわよ?」

「俺にはまっすぐ帰れって・・・うるさいんだけどな」

不満そうに口にすると、

「それは、あなたが中学生だからでしょう?」

いつのまにか雪村の婆さんがそばにいた。

「あなたはもう少し真面目にしなければいけませんよ?」

「は、はい」

どうも調子を狂わされるんだよな。
この婆さん、良守の爺さんよりずっと凄みがある。
何度もココで顔を合わせているのに、逢うたび緊張しちまう。

「時音ちゃん、帰ってきたみたいだね」 玄関の物音に、秀が表情をゆるめた。

「あら」

半袖のセーラー服姿の雪村は、俺と秀が普通に居間にいることに少し驚いた様子を見せたが、座卓上のごちそうに目をやると納得したみたいにうなずいた。
そして俺をチラっと一瞥した。

「・・・あんたの好きそうなメニューだこと」

今夜のメニューはとんカツ。ヘレ肉だ。
夜行の台所事情は厳しく、普段なかなかこんな料理にはありつけないだけに正直、うれしい。

「時音、手伝って」

おばさんに促され、雪村は制服のまま、いそいそと夕飯の準備を始めた。
座卓の脇に座って、皿を並べ、茶碗に米飯を盛っていく。

不意に、うなじが目にとびこんできた。

セーラー服の襟からスッと伸びた首筋。
わが目を疑うほどに艶かしい肌。

目が離せぬまま、ただうっとりと見惚れてしまう。
秀が言うのもムリないな。ほんとに・・・キレイだ。
女のコの肌とはこんなにも美しいものなのか―。

身体が熱くなった。
吸い込まれそうな美しさ。
触れればそのまま指が吸いついてしまいそうな美しい肌。

目をそむけても、知らず知らずにまた、うなじを見ていた。

うなじに続く背中、胸・・・・。
制服の下の肌。
良守は・・・・ばっちり見ちまったんだよな。
いっそ、そのほうがラクになれるかもしれない。
だって―キリがない。
淫らな想像に、果てなどあるものか。

「ちょっと、あなた」

またしても婆さんだよ。
バツの悪さをごまかすため、俺は “手でも洗うか” そそくさと場を離れた。

◇◇◇

その日を境に、俺は懊悩と苛立ちにさいなまれることになった。
日によって変化を見せるその美しさと艶かしさに魅せられていた。

何?俺ってもしかして・・・うなじフェチなの?いや、正確には美肌フェチ?

ワケのわからない問答を繰り返すことにも疲労を感じる。
だが、とまらない。

それから身近な人間のうなじが気になり始めた。

うなじというのは、やけに艶かしいわりに、容易に目に触れるものでもある。

同じクラスの女子に目を向けてみる。

前の席に座る級友女子のうなじ。
好みのタイプかも・・・などと思い始めていた松田という女のコのうなじも盗み見た。
彼女の黒目がちの大きな瞳は、面と向かって話すとき、相手の顔の一部分をじっと凝視する。
“あの目にやられるよなぁ” 級友男子がみんな口を揃えて賞賛する彼女のまなざし。
ほっそりとした優雅な身体つきにも、魅力を感じていた。

しかし、素っ気無いほどにすっきりしたうなじは、ただ清楚なだけだった。
色気だとか艶かしさなどとは無縁のそのうなじに、むしろ彼女への好感が醒めたほどだ。

幼すぎる松田のうなじ。
せいぜい大人ぶって見せたところで所詮は中学生。
まだ、コドモなんだよな。
顔もうなじも、手も身体つきも、幼さが残っていて―。

もちろん。

あの女、雪村にしたところで、たかだか2年ほど上なだけの清楚なお嬢様。
それに、まだ男など知らないはず。
なのに、なんだろう、あのうなじの美しさは。

大人の女にも目を向けてみたが、雪村のような悩ましいうなじにお目にかかることはなかった。

「なぁ、良守」

「ん?」

昼休み、自席でノートにケーキプランなんぞを書いてる様子の良守に声をかける。

「お前さぁ、のんきにそんなことやってるけど・・・いいのか?」

「何がだよ」

「ほら、雪村の・・・・」

「時音?」

怪訝そうに俺を見上げる良守の目に、
自分が今、言おうしていることがひどく場違い・・・違和感あるってことに気づいた。

「い、いや・・・その、七郎とかさ」

適当に責任をヤツに押し付けることにする。
無難といえば無難な心配のタネだからな、七郎のことは。

「そりゃ・・・気になるけど。四六時中、見張ってるワケにもいかねーし。信じるしかねーよ」

「お、おう」

そう言って良守から離れた。
拍子抜けしているだろう良守の顔が容易に想像できた。

・・・違和感あるのはわかってる。だから言わないが、でも。
俺の心配は、目下のところあの女の・・・うなじなんだ。

あれはやばい!やばいだろ、絶対に。

正直に言うと、雪村の教室での座席が気になる。ヒジョーに気になる。
後ろの席に座るのは男か女か。

―女であってほしい。

いや、仮に今、女が座っていたとしても、そのうち席替えがあったら?あるだろ、普通。
んでもって、男が毎日、毎時間、あのうなじを見つめることになったら―。
不安定な精神が見せる惑わしに耐え切れず、おそらくそいつの成績は下降の一途だろう。
その男に同情すらおぼえる。
しかしいっぽうで、無性にハラが立つのも事実だった。

未熟な幻想に悩まされるのも悪くない―。

そこまで思って、ごくりと唾を飲み込む。
そして懊悩を振り払う。
次の瞬間、突如浮かんだ名案に、幾分、ホッとさせられた。

◇◇◇

学校帰り、良守と秀と共に彼女の後ろを歩いていたときのことだ。

「ゆ、ゆっき村~!」

俺は殊更に、努めて明るく彼女に声をかけた。
このところの彼女への後ろめたさを詫びる。そんな意味でも殊更に不自然なほど明るく。

驚いた表情をしたのは、俺の声に振り返った雪村だけではない。
隣を歩く良守も秀も、訝しげに俺を見ている。

「なっ・・・お前、どしたの?」

「閃ちゃん?」

当の雪村も立ちどまって俺たちが並ぶのを待って、それから言った。

「・・・・何か、頼みごとでもあるのかしら?」

「いや、別に何もないけど・・・ただ」

「?」

「こ、これから夏本番じゃん。髪が長いと、その・・・いろいろとメンドーだろ?」

「・・・・何よ、何が言いたいワケ?」

「き、切ったらどーかな!?なっ?お前らも思うだろ?」

“肩までのボブ、とかさー、雪村に似合いそうじゃん?”
な?と俺が隣のふたりに笑顔を向けたにも関わらず、ヤツらは俺の思惑にまったく気づく様子もない。
きょとんとした表情で首を傾げている有様。
良守に至っては「俺は今みたいな長い髪、好きだから」などと照れてる始末だ。

「うん、僕も今の髪型が涼しそうで良いと思う」―と、これは秀。

なんだよ、お前ら!うなじ隠さないと、確実にやばいんだって!なんで・・・気づかねーの?

ていうか秀!
お前の発した、要らぬひと言のせいで、俺がどれだけ苦労してるかわかってんの!?
どれだけ悪夢にうなされていることか・・・・まぁ、それはその。とても、きれいな悪夢ではあるんだが。

「ばかね、長いほうが夏は涼しいのよ?こうやってまとめられるでしょ?」

にこやかに笑い、“ほら”と、結わえられた髪を手でくるっと回して見せる雪村。
瞬間、髪に隠されていた白い首筋が露わになり、女の艶っぽい眩しさが俺の胸を貫く。

「あ、悪夢だ・・・・」 知らず、口にしていた。

「は?」 辛辣な視線が3方向から浴びせかけられる。

「も、イイ・・・」 諦観に達した俺は消え入りそうにつぶやく。

俺としたことが。
バカだった。
ガキみたいなこと言った自分がはずかしいぜ、まったく。

いたたまれず、ひとり先をゆく。

こんなの。
つまんねえ、ただのヰタ・セクスアリス。
高校生男子なら、きっとも少し大人だろう?
そもそも。
俺が雪村のうしろの席に座ることなんて絶対ねえんだしな・・・・。
良守だってねえんだし。
つか、ヤツはまだあのうなじの艶っぽさにも気づいてないだろ?

そこで思考が転換した。
勝手な思いつきだと知りつつ、だけど―。

・・・良守もそのうち。
このテの悪夢にうなされる。
いや、今だって。俺とは別の悪夢に悩んでるはず、まちがいない。
でもいつかその夢、夢じゃなくなる可能性があいつには―。

そうさ、俺はこのままあの女に、ただ夢を見るだけ。
どんなにうなされたとしても、ただそれだけ。
以上でも、以下でもなく。

―思いのほか重症であることが情けない。微かな痛みまで伴ってやがる。

「あーあー・・・。俺、うっとーしいな」

ひとりごちて空を仰ぐ。
雨になりそうな雲行きに、ためいきがもれた。

 

~fin.~


読んだよ☆

 


 

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author: lala (ララ)

『結界師』がお気に入りです。

原作で満たされなかった想いを二次創作にぶつけています。

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